メインコンテンツにスキップ
開港都市・函館を歩く カモメが見た異文化の入り口と今をつなぐ街

開港都市・函館を歩く カモメが見た異文化の入り口と今をつなぐ街

TRAVEL 2026.02 函館特集

share

カモメが白い羽を広げて

函館は開港都市である。

開港都市としての函館は、今もその独特の輝きを放っている。特に、函館山の中腹から裾野にかけて広がる西部地区には、特色となす場が多い。

「開」かれた「港」。一見、伸びやかに見える表現だが、ペリー提督率いる五隻もの黒船艦隊が函館港へ来航した、1854年の人々の緊張感には、並々ならぬものがあったと伝えられる。

黒船艦隊は、ご存じの通り、当初は神奈川県に位置する浦賀沖に現れ、開国を求めた。江戸幕府は、日米和親条約を締結する形で、これを受け入れる。その際幕府が、もう一つの開港地と決めたのが函館であり、松前藩には突如の通達だったようだ。

当時の記録によると、藩は十分な準備の猶予も与えられず、大混乱を極めた。老人や女性、子どもたちを近隣の村に避難させ、残った村人たちも、店舗はすべて閉じ、大艦隊の到着を、息を殺すようにして待ち受けた。

函館湾に五隻もの船が、蒸気を上げて入港する。誰しもに、想像を超えた驚きを与えたことだろう。住民たちの恐怖を他所(よそ)に、入港したペリー提督らが早速に始めたのは、湾内の測量であった。

函館湾は穏やかで良港、目的は、自国の捕鯨船の入港地を探すことであり、ここには食料や燃料の調達のための好条件が揃っていた。滞在中には、函館で多くの資材の買い付けまで始めている。函館の街から少しずつ緊張が解けていき、むしろ発展のための富が集まっていった。

港を開いた函館には、アメリカからだけではなく、フランス、イギリス、ロシアなど、様々な国が異文化を伴って、日本への足がかりを求めて入ってきた。各国が、領事館を作り、教会を作り、商売を始めた。

函館の人たちは、この国の急激な時代の変遷を、どこより早く目(ま)の当たりにしたはずだ。港を開き、国際都市へと変貌していく経験には、豊かさが宿った。もちろん、個々には個々の物語があったはずだが、恐怖と緊張の中で迎えた異国の人たちへの思いは、おそらく劇的に負の要素から肯定的なものへと変わっていったのだろう。

ひたすら函館湾の測量を行い、函館をHakodadi と呼び、ここには良港があると世界に知らしめたペリー提督の来航から始まる、この街の開港物語には、暗さや物悲しさがない。その後も、函館の女性と結ばれソーセージ店を開いたドイツ人カール・レイモンに、子ども時代に頭を撫(な)でられた、とか、同じ幼稚園にいたロシア人の子たちとお遊戯をした、とか、異国の人の家の中が見たくて、窓から覗いた、とか、街に残るエピソードは微笑ましいものが多い。

函館の人たちが、今も来函する国内外の客人たちを、活気をもって温かく迎える気風は、ここに礎があるように私は感じている。

函館山は高さ334メートル、この中腹から裾野にかけて、数えると十九もの坂が延びている。一帯は西部地区と呼ばれ、それぞれの坂に異なる街路樹や景色が広がる。地元の人には、大抵、お気に入りの坂があるのではなかろうか。

随所に、歴史的な建造物が立ち並ぶ。ひと際目立つコロニアル様式の洋館は、明治期に当時の豪商、相馬家の寄付で建てられた旧函館区公会堂、基もとい坂ざかを下っていけばペリー提督像の立つ、のどかなペリー広場がある。各国の教会やかつての領事館などが、同じように港を見下ろし、点在する。船の出入りを見張る拠点でもあったはずだが、どの異国の人にとっても、港を眺めながら募る、望郷の念は変わらぬものだったろうと想像する。

函館の街は、古い建物を簡単には壊さずにきた。なので今も、街歩きは楽しい。古い建造物は、歴史を、そして、そこに生きた人々の思いをどこか滲ませながら建っている。町屋にいたっても風情があり、市民の有志の方々が、取り壊されそうな建物を見かけると、声をかけて歩いていたという函館ならではのストーリーもある。

元町でギャラリーを営んでおられる村岡武司さんは、『鐘の音』という著書を執筆されている。日曜日になると、一斉にそれぞれの教会から鐘の音が響く。日本のお寺からも、鐘の音は負けじと響く。ロシア正教の教会では、鐘楼(しょうろう)で、両手両足で鐘をならす司祭の法衣の裾が、海からの風にのって舞う。

海に囲まれた函館は、それゆえに、強風に見舞われ、かつては度重なる大火や空襲、台風などの大災害にも見舞われてきた。その都度立ち直ってきた人々の強さは、かけがえがなく、わたしはいつしかこの街を舞台にした小説を書くようになった。

そんな街のどこかしこに、鐘が鳴り響く時間帯がある。今ある平穏を、そして今日も変わらず響いた鐘の音を祝うように、カモメが白い羽を広げて飛び交う。そんな瞬間に出会ってしまうと、この街はひどく心に残る。

文・谷村 志穂 (たにむら しほ)

小説家。北海道大学にて応用動物学を専攻。自然や旅、性などの題材を中心に執筆を重ねる恋愛小説の名手。2003年、『海猫』で島清恋愛文学賞を受賞。代表作に『黒髪』『余命』『尋ね人』『移植医たち』など。

写真 木内和美 
取材・文・編集 宮崎沙綾

函館への翼
東京(羽田)からANA便で函館空港へ。
※運航情報は変更になる可能性がございます。 最新の情報はA N Aウェブサイトをご確認ください。

翼の王国のアンケートにぜひご協力ください。
抽選で当選した方にプレゼントを差し上げます。

函館おすすめのホテル

  • ラビスタ函館ベイ(共立リゾート)

    異国情緒溢れる函館の街を散策してたどり着く宿「ラビスタ函館ベイ」。古き良き時代の面影薫るホテルがお客様をおもてなしいたします。天然温泉展望大浴場から見下ろす百万ドルの夜景もお楽しみいただけます。
    TEL : 0138-23-6111
    詳しくはこちら

  • プレミアホテル CABINPRESIDENT 函館

    JR函館駅や函館朝市から徒歩1分のアクセス。客室からは函館港や函館山の美景を一望でき、歴史情緒あふれる街並みや夜景はもちろん、地元食材を使用したお食事をご堪能頂けます。 お客様へ洗練された空間と あたたかいおもてなしでお迎え致します。
    TEL : 0138-22-0111
    詳しくはこちら

  • 函館国際ホテル

    ★選べる朝食★道産食材豊富な和洋中のビュッフェor3種のひつまぶし!天然温泉展望大浴場「汐見の湯」より函館山や函館湾の眺望がお楽しみいただけます。駐車場は当日午前11時からご出発日の午後14時まで1泊1台1000円で何度でも自由出庫可能。
    TEL : 0138-23-5151
    詳しくはこちら