未知の夏みかんワインに挑んでいます~夏みかん物語4
山口県の北部に位置する萩といえば、吉田松陰、高杉晋作、そして伊藤博文に代表される長州ファイブなど、幕末から明治維新、さらには明治期にかけて活躍した偉人のイメージが強い。明治維新からほどなく、萩では日本で初めて夏みかんの経済栽培をスタート。今でも萩のまちを歩けば、いたるところに夏みかんがたわわに実り、5月上旬には白い花を咲かせて、萩のまち全体が甘く爽やかな香りに包まれる。萩は夏みかんのまちなのだ。
萩の未来予想図を描き、夏みかんの畑を守り夏みかんのワインを作る
「萩マルマレットは、坪屋さんの夏みかんで作っています。皮はちょっと薄いですが、ものすごく香りがよくて、酸っぱくてピュア。底味があるんです」と中原万里さんが紹介してくれたのが、夏みかん農家の坪屋卓司さん。生まれは萩だが、高校卒業後に上京。東京都内のイタリア料理やフランス料理のレストランで15年働き、ワインに魅せられ、40歳のときにニュージーランドへ。ブドウ栽培とワイン醸造を学んで帰国し、山口県やイタリアのワイナリーで経験を積んだ後、2018年に故郷に戻り、夏みかん栽培を始めた。
坪屋さんの実家は夏みかん農家ではなく、自宅からほど近い鶴江台に畑を借り、自然な農法で夏みかんを育てている。
「岡本よりたかさんの自然農法、矢野智徳さんの大地の再生、三浦伸章さんのガッテン農法、ルドルフ・シュタイナーのバイオダイナミック農法のいいとこどり。
畑の自然な循環を見守り、果樹自体の生命力を活性化すれば、風味豊かな果物になります」
鶴江台は、三角州の旧萩市街を形成する松本川の対岸。もともとは漁師町だったが、火山系台地のため鉄分とマグネシウムが豊富で、水はけがよく日当たりがいいので、夏みかんが栽培されるようになったという。
「戦後は一大産地だったそうです。とはいえ、今は日本全国どこも同じだと思いますが、生産者の高齢化が進み、農家自体が減少しています。糖度の高い果物が好まれる今の時代、酸っぱい夏みかんはかつてのような高値では売れません。ジャムにするにはさっぱりしておいしいとはいえ、このままでは萩の夏みかん産業は衰退してしまう。自分でおいしい夏みかんを作って、ワインにしようと思いました。夏みかんワインはまだ誰も作っていない未知のジャンル。みんなが飲みたくなるようなワインができれば、萩に人が集まり、もっと盛り上がっていくのではないかなと」
現在、ワイナリーとして使える施設を市内で探している坪屋さん。食べごろの夏みかんの実をもぎ、皮にナイフで切れ目を入れた瞬間、爽やかな香りが弾けるように広がった。実を口に含むと、酸っぱさの中にやさしい甘みがあり、何より力強い味。この夏みかんで、どんなワインができるのか楽しみでならない。
萩フトマ醸造所
TEL 080-5610-8412