マナティの群れと跳ねるテニスボール フロリダで国枝慎吾が感じた“春”
※ この記事は、翼の王国2025年3月号に掲載されたものです。
突然ですが、皆さんはどんなときに春を感じるでしょうか。冬用の分厚い上着が必要なくなったとき?あるいは桜の開花情報に触れたときでしょうか?

3月になって、私が暮らすアメリカ・フロリダ州もすっかり春めいてきました。とはいえ、はっきりとした四季のある日本と違い、真冬でも半袖シャツに薄い上着を羽織る程度で過ごすことができるオーランドでは、和らいできた寒さに春を感じるということは正直、ありません。桜を見かけることも、ほぼありません。ですが、それでもやっぱり春の到来を実感させてくれるのは、移ろいゆく自然の姿です。


以前もお伝えしたとおり、フロリダは本当に自然が豊かで、とても身近です。先日も、妻とブルースプリング州立公園にマナティを見に行ってきました。その名のとおり、青く美しい泉がある広大な公園で、園内の川には数百頭ものマナティがいました。マナティは冷たい水が苦手で、冬でも温かい湧水を求め群れで集まってきます。つまり、冬が終わり春を迎えると、この大群は姿を消すのだそうです。


野鳥の数も増えてきたように思います。自宅の近くにも、職場である全米テニス協会のナショナル・キャンパスにも、悠然とツルが舞い降りてきます。昨年、初めて目の前に大きな鳥が現れたときは、驚きと感動を覚えました。でも、それから1年を経て、いまでは日本でカラスやハトを見ていたように、ツルを眺める自分がいます。それぐらい私も、フロリダの身近な自然に慣れ親しんだということでしょう。でも、いまだに慣れることができない“野生動物“も。それはアリ。やはり、暖かくなってきて出没するアリも増えてきました。こちらの建物は、日本ほど緻密に建てられていないのか……、我が家はマンションの4階だというのに、部屋の中に入り込んできたアリたちが列をなして壁を這っていたり。朝、起きてみたら、ハチミツのボトルにアリが群がっていた、なんてこともありました(苦笑)。

かように、野生の動物たちの姿に春を感じる今日このごろですが、じつは私がもっとも強く、春を実感する場所はテニスコートです。1年を通じて温暖なフロリダですが、それでも、気温の変化はあります。そして、わずかな気温の差で、テニスボールは弾み方が変わるのです。今日もコートで、私は気分よく跳ねるボールを打ちながら「もう春だな」と心も弾ませています。


国枝 慎吾
脊髄腫瘍のため9歳から車いす生活となり、11 歳で車いすテニスと出会う。四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成。23年1 月、世界ランキング1 位のまま引退。
2016年よりスポンサーシップ契約を結んでいるANAは、国枝さんの新しい挑戦を応援し続けます。
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