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車いすテニス王者・国枝慎吾の思い出便「今日はサプライズあるかな?」

車いすテニス王者・国枝慎吾の思い出便「今日はサプライズあるかな?」

LIFE STYLE オーランドの空の下で

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※ この記事は、翼の王国2024年12月号に掲載されたものです。

私は比較的、飛行機に乗る機会が多い暮らしを送っています。海外遠征の多かった現役時代はもちろんですが、引退後もそれは変わりません。今年は、1月に生活の拠点をフロリダ・オーランドに移し、その後、何度か日米を往復したことや、9月にパラリンピック・パリ大会の会場を訪れたこともあって、この1年の間でも10回以上は国際線のフライトに搭乗してきました。そこで今回は、私の機内での過ごし方を紹介したいと思います。 

現役時代、遠征先からの帰国便に乗った際に必ず行っていたのが、直前の試合の分析でした。試合のVTRを見ながら、要点や反省点をまとめ上げる、この作業がもっとも集中できたのが飛行機の中でした。そして、日本に着陸するころには早くテニスがやりたい、そんな気持ちになっている……、これが私の現役時代のルーティンでした。 

これは、車いすアスリート共通の悩みだと思いますが、遠征となると荷物がとにかく膨大になるんです。私の場合は日常生活用の車いすと試合用の車いす、ラケットバッグ、そしてスーツケース……以上が最低限。加えて、体調維持のためアイシングのマシンを持って行ったこともあります。これだけの量の荷物を毎度のように、飛行機に預け入れていたわけです。これに関しては、サポートしてくださったANAの皆さんには本当に感謝しています。 

また、現役中はよく、CAの皆さんからサプライズのお祝いをいただきました。優勝した大会後のフライトで、「Congratulations!」などと書き添えられたデザート・プレートを供していただいたのです。でも……。正直に言うと、おかげさまで優勝回数がそこそこ多かった私には、だんだんとそれはサプライズではなくなっていて。「今日もそろそろかな、だとすると歯磨きはその後にしようかな」なんて(笑)。ごめんなさい! 

2023年1月に現役を引退した私は、それ以降、飛行機に乗る際に大荷物に頭を悩ませることはなくなりました。「こんなに身軽に旅ができるなんて!」と当初は感激したものでした。機内ではもちろん、試合を振り返り分析することもありません。“ゲーマー”な私はフライト時間の大半をゲームをしながらリラックスしています。そして、当たり前ですが、CAさんたちからのお祝いもなくなりました。万一、いまそんなことをしていただけたりしたら、本当の意味でサプライズです(笑)。

国枝 慎吾

脊髄腫瘍のため9歳から車いす生活となり、11 歳で車いすテニスと出会う。四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成。23年1 月、世界ランキング1 位のまま引退。

2016年よりスポンサーシップ契約を結んでいるANAは、国枝さんの新しい挑戦を応援し続けます。