パリで感じた嫉妬と未来 車いすテニス界の新星・小田凱人の衝撃
※ この記事は、翼の王国2024年11月号に掲載されたものです。
今年1月、アメリカ・フロリダ州に拠点を移した私は、「翼の王国」の7月号から、日々の暮らしなどを綴(つづ)るフォト・エッセイ「オーランドの空の下で」を連載してきました。しかし、今回は少々、趣向を変えさせてください。というのも9月、私はパラリンピック・パリ大会の熱戦をつぶさに目撃しリポートするため、オーランドから7千キロ以上も離れた大西洋の対岸に身を置いていたから。そこで、今回は特別編をお送りします。題して「ローラン・ギャロスの空の下で」――。


成功裡に終わったパリ大会。国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長は大会を総括し「信じられない2週間だった」と話しました。私も同感です。目(ま)の当たりにした競技レベルの高さ、肌で感じた観客の熱狂、紛れもなく史上最高のパラリンピックでした。


日本の選手たちも、金メダルを14個も獲得するなど大活躍。車いすテニスでは男子シングルスで小田凱人(ときと)選手が、女子シングルスでは上地結衣選手がそれぞれ金メダルを勝ち取るなど、出場した8選手全員が感動的なプレーを見せてくれました。

なかでも、小田選手……、圧倒的なパワーを持つ彼は、車いすテニスという競技そのもののスケールを、ひと回り大きくしたと思います。今後は彼が、一つの基準になっていくはずです。ライバルたちは彼のパワーに対抗、対応しなければ、頂点を目指すことができなくなるからです。この先5年、10年と、小田選手やライバルたちが、車いすテニスをどこまで引き上げてくれるのか、とても楽しみです。

幸運にも私が金メダルを獲得できた前回の東京大会では、車いすテニスがどんなスポーツなのかということを、それまでご存じなかった多くの方々にお伝えすることができたと実感しました。言うなれば「ゼロ→認知」、その部分には、少しは貢献できたと自負しています。次なるステージは「認知→人気」。これまで以上に大勢の観客が会場に詰めかけ、また、さまざまな障がいを抱える人たちがスポーツをもっと楽しめる、そんな社会を目指すためにも、小田選手たちに寄せる私の期待は、とても大きいのです。そして、この頼もしい後輩たちならきっとやってくれるはず……、そんなことを、私はローラン・ギャロスの実況席でぼんやりと考えていました。
しかし同時に、強烈なジェラシーを抱いてもいたのです。どうしても、無観客開催された東京大会と比べてしまって……。正直なことを言えば、割れんばかりの歓声と拍手のなかプレーできた後輩たちが、本当に羨ましくて仕方なかったのです。

国枝 慎吾
脊髄腫瘍のため9歳から車いす生活となり、11 歳で車いすテニスと出会う。四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成。23年1 月、世界ランキング1 位のまま引退。
2016年よりスポンサーシップ契約を結んでいるANAは、国枝さんの新しい挑戦を応援し続けます。