福岡の店屋町ごとうで出会った夜の“いかめし” 土鍋の蓋を開け「やられた」
いい意味でこちらの想像が裏切られたとき、ついつい「やられた」とつぶやいてしまう――。
先日、訪問した福岡でも、私はそんな嬉しい出会いを経験しました。博多区の「店屋町ごとう」。カウンター席だけのこぢんまりとした、でも、とても雰囲気のある創作日本料理のお店です。メニューはコースのみですが、出てくる料理はどれも文句のつけようのないおいしさです。
終盤、まだ30代と思(おぼ)しき気さくな店主が「今夜は“いかめし”です」と供してくれたのが、土鍋のごはんでした。「九州なのに?土鍋のいかめし?」と私は少し訝(いぶか)しく思いました。なぜなら、イカの胴に米を詰めて甘辛く炊いた北海道名物が、真っ先に浮かんでいたからです。
ところが、ここの“いかめし”は、まるで違いました。笑顔の店主が土鍋の蓋(ふた)をパッと開けると、湯気が立ち上るごはんの上にはカリッと姿揚げにされたイカがドンと載っていたのです。そのイカをカジュアルに手に取ると、店主はキッチンバサミでチョキチョキとカット、おもむろにごはんと混ぜ合わせます。うなぎのひつまぶしならぬ、いかの土鍋まぶしごはんの完成です。
いただいてみると、驚くほどおいしいんです。炊き立てのごはん、それに揚げたてのイカのお味が絶品なのは言うまでもありません。そのうえ胴、耳、げそといったイカの部位それぞれの、さらに、ごはんに蒸されしっとりとした衣もあれば、カリッと感が残っているところもあって。そんな複雑な食感の違い、面白さが、全体の味に絶妙な深みを与えているのです。
店主の“遊び心”すら感じながら、いかめしのイメージを綺麗に払拭されて、私はまたもや「やられた……」とつぶやいたのでした。
今月の装花はミスカンサス。あの晩のいかめしにインスパイアされ、私なりの面白さ、遊び心を表現しようと、イネ科のグリーンを鞠(まり)や手箱のように。

赤井勝(あかい・まさる)
65年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。08 年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、13 年、伊勢神宮式年遷宮では献花を奉納。24 年、大阪府堺市に「Akai Masaru Art Museum」をオープン。
装花・文 赤井勝
編集 仲本剛
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