京都・四条烏丸の隠れ家『廣澤』 香りに恋する中華を
プロテアナナ/Sugarbush
おいしいものに目がない私。この連載では、思わず「やられた」と呻(うめ)いてしまうような、そんな美食との出会いを綴(つづ)ってきました。ですが今回は、料理を口にする前に「やられた」と呟(つぶ)やいていた、そんなお店です。
ずっと気になっていたお店ですが、きっかけがなく、なかなか足を運べずにいました。ところが先日、お世話になっているご夫妻から「一緒にご飯でも」と誘われたのが、偶然にもそのお店、ヌーベルシノワの『廣澤』でした。
京都・四条烏丸(しじょうからすま)。極端に狭い間口から足を踏み入れると、そこは緑濃い綺麗な庭。その奥にたたずむ、京町家を改装した建物も素晴らしい趣です。暖簾をくぐれば、シンプルで美しい空間が広がっていました。ただ、性根が捻(ひね)くれている私は「なるほど、京都ならではのオシャレな演出やね」などと、申し訳ありませんがこのときまでは、どこか斜めに見ていました。
カウンターの席に座ると、大きな窓から美しい庭が望めます。しかし、それ以上に私が心を掴まれたのは、窓に隣設された窯でした。「叉焼(チャーシュー)からお出ししますね」と店主が窯を開くと湯気と煙、それに得も言われぬ芳(かぐわ)しい香りがあふれ出て。その瞬間、私は魔法にかけられたような気持ちになりました。
そして現れたのは照りが美しい、肉汁滴る叉焼……もう、いただく前からおいしいに決まっています。まだ一口も食べていませんが、赤く輝くその肉片を目にしただけで「やられた」という言葉が漏れ出てしまったのです。言うまでもなく、その後いただいたお料理はすべて、艶(なまめ)かしいほど美味でした。今月の花。魅惑の中華料理との邂逅(かいこう)を、私は官能的なプロテアナナに託したのです。

赤井 勝(あかい まさる)
65年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。08年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、13年、伊勢神宮式年遷宮では献花を奉納。昨年、 大阪府堺市に「Akai Masaru ArtMuseum 」をオープン。
編集 仲本剛
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