愛知「はづ木」開湯 1300年の湯と漢方薬膳料理の相乗効果〜旅で潤う vol.16

2024.01.26 LIFE STYLE DEPORTARE

1300年前からの湯と漢方薬膳料理の相乗効果

奥三河の景勝地としても知られる鳳来峡の宇連（うれ）川沿いに広がり、日本百名湯にも選ばれる湯谷（ゆや）温泉。その歴史は古く、開湯は1300年前とも言われています。しっとりと滑（なめ）らかな湯は、お肌にやさしく、体を芯からじっくり温めるのが特徴。皮膚病や関節痛などに効くと評判です。

訪れたのは、愛知県新城（しんしろ）市で約30年続く温泉宿「はづ木」。漢方薬膳を使った目にも鮮やかな懐石料理がいただける宿として有名で、その味を求めて多くの女性客が足を運びます。

「お料理に使われる生薬は十数種。例えば、エビの炒めものに使用している紅花には、古い血を溶かす浄血作用があり、肌荒れや肩こりにいいと言われています。お客様からは、『食べているときから体がポカポカしてくる』『満腹になっても胃もたれしない』とおっしゃっていただくことも多いですね。食事で体の中から、温泉で体の外から綺麗に、健康になっていただきたいと思っております」と、若女将の加藤弘依さん。

本場、中国の上海から呼び寄せたシェフが作る本格中華料理は、滋味あふれる逸品揃い。

疲れた体を再生させたいときに行きたい場所ができました。

本場・上海の味を日本旅館の看板料理に

「漢方薬膳料理の提供は、平成6年（1994年）にはづ木を開業したときから始めました。創業者でもある今の会長が当時、旅行で上海を訪れた際に訪れたホテルのレストランで薬膳料理に出会い、その味に大変感動したのがそもそものきっかけです。これからオープンする宿でも、ぜひこの薬膳料理を提供したいと、日本に料理人を呼び寄せるために1カ月以上も交渉を続けて、ようやく派遣してもらうところまで漕ぎ着けました。専門チームがホテルで提供していたお料理をベースに、はづ木用に新たに考案してくださったコース料理は30年経った今も受け継がれています」（加藤さん・以下同）

上海漢方薬膳懐石料理が評判を呼び、人気の宿となったはづ木だが、オープン当初はかなり苦戦したそうだ。

「当時は、漢方薬膳という言葉自体、日本ではほとんどの耳にしたことも、目にしたこともない時代です。『そんな薬っぽい料理なんか食べたくない』と言われてしまい、全く見向きもされませんでした。それが年々、世の中に漢方とか薬膳という言葉が浸透してきて、ようやく日の目を見たという感じですね」

夜のコースは、食前酒の老酒から始まり、疲労回復のための鳥のムネ肉のスープや、高血圧による頭痛に効く「魚の蒸しもの」、体の酸化を防止するダチョウ肉の炒めものなどを提供。通常コースには入っていないスッポン鍋も予約時にオーダーすればいただける。

「朝食のお粥は、古来中国で皇帝に献上されていた黒米を入れています。蒸し野菜やちまき、あおさと春雨のお汁、と量もたっぷり。桶で提供される手作り豆腐は、紅花が入った豆乳ににがりを入れてお客様の目の前で作ります。熱々で美味しいと評判です」

家康ゆかりのパワースポットで長寿の湯に浸かる

昭和初期に建てられた料理旅館を改装した純木造数寄屋造りの建物に客室は全部で5室。部屋や食事処からは豊かな自然を望むことができる。新城ICから車で約15分、新幹線の豊橋駅から1時間という場所にある湯谷温泉には、海外旅行客も多いという。

「最近は、外国の方も増えてきて、東京からレンタカーを借りて、大阪や京都に向かう途中に立ち寄られるお客様が多いです。スタッフが、『どうやってここを見つけたの？』って聞いたら、〈山の中、田舎、温泉〉って入れて検索したら出てきたとおっしゃっていたお客様もいました。日本に2〜3度来られたという方は地方に足を運んでくださるんだなあという印象ですね」

はづ木のある湯谷温泉は、霊山として信仰されてきた鳳来寺山の麓にある。「鳳液泉（ほうえきせん）」と呼ばれる源泉は、鳳来寺の開祖・利修（りしゅう）仙人が703年に発見したとされ、万病に効くといわれる。たびたび鳳液泉に浸かった利修仙人は、308歳まで生きたという伝説もあるとか。

「この辺りは、中央構造線という大断層が走っているところでエネルギーがとても高いといわれている地域。中央構造線上には、伊勢神宮など信仰の聖域が集まり、鳳来寺山も霊験あらたかな場所として知られています。山の中腹に鎮座する東照宮は三代将軍の家光が建てたと伝わる、日光や久能山に並ぶ日本三大東照宮の一社です。パワースポットめぐりがお好きな方やハイキング客がたくさんいらっしゃいます」