佐賀「嬉野茶 2」 お茶を“手紙”のように送る、若手茶農家の新たな挑戦~
お茶を贈る日本の文化を新しい形で若手茶農家の挑戦は始まっている
「嬉野は温泉でたくさんの観光客に来ていただけるのが一番の強み。ここを訪れた人が出会った嬉野のうれしの茶を、絵葉書のように友人や家族にお茶を送っていただけたらいいなあ、と。『グリーンレタープロジェクト』はそんな思いを込めて始めました」
そう語るのは、今回茶畑を案内してくれた「三根孝一緑茶園」の三根孝之さん。嬉野の若手茶農家16人とともに、茶葉5グラムを個包装して大切な人に送る「グリーンレタープロジェクト」を3年前に立ち上げた。冠婚葬祭や季節のご挨拶など、日本の習慣のなかで贈り物の定番だったお茶を新しい形で提案したいという若き世代の挑戦だ。
「嬉野という土地の名前がより多くの人の目に触れることで、『嬉野に行ってみたい』『嬉野茶を飲んでみたい』と思ってくださる人を一人でも多く増やせたらいいですね」
お茶が入ったパッケージは、宛名やメッセージを書いてそのまま郵送できる手軽さがいい。16人の茶農家が生産・加工したこだわりのお茶が1袋ずつ16種類と、ブレンド茶を含めた全20種類からお好みのお茶を選べる。
「嬉野はほかのお茶の生産地に比べて個人農家が多いので、ほとんどの農家が自前の工場を持ち、生産・加工まで一貫して行っています。そのため茶農家ごとの色を出しやすく、それぞれお茶の違いを楽しめるというのも、うれしの茶の特徴だと思います」
三根さんの茶農家で作られたお茶は、全国茶品評会で農林水産大臣賞をはじめ、優れた経営体に贈られる内閣総理大臣賞も受賞している。5代目の三根さんはどんなお茶を目指しているのだろうか。
「一番に求めているのは、“美味しさ”です。無農薬や有機栽培というものが注目されていますが、お茶は永年作物なので冬場でも畑はずっとこの状態。無農薬で美味しいお茶を作り続けるのはなかなか難しいというのが実情です。お茶づくりをしていて一番嬉しいのは、やはり自分の思ったとおりのお茶ができたときですね」
我々が畑を訪れたのは、2週間後には遮光資材でお茶の木を覆う被覆(ひふく)栽培に入るという季節。太陽の光を一定期間遮(さえぎ)って育てることで旨み成分たっぷりの茶葉ができるが、高級茶の「玉露」は、被覆栽培を行うお茶の一つ。新芽を摘んだらその日のうちに加工するため、作業は深夜まで続くという。
「うれしの茶の特徴は、茶葉の形状が勾玉(まがたま)状に丸く、玉緑(たまりょく)茶と呼ばれています。茶葉を針状に加工するお茶と違って強く揉み込まないのが特徴で、若くてやわらかい葉でないとこの形状にはならない。玉緑茶には『釜炒り製』と『蒸し製』と2種類あり、嬉野は、『蒸し製玉緑茶』の代表的な産地です」
嬉野市で生まれ育ち、20歳で就農してから17年。三根さんにとって嬉野のいいところは?
「田舎だからか、人と人との距離が近いですよね。自分が子供のころもそうでしたけど、大人たちが自分の子だから、よその子だからと、分け隔てすることなく接してくれる。地域が子供を育てているという感じがあります。あと、うちのお婆ちゃんなんか、畑で野菜が採れると近所の家の玄関にどんどん置いていくんですけど、どこの家でもそれをやっているので、誰からもらったのかわからない野菜でいっぱい(笑)。でも、そういうところがいいなあって思います」
三根孝一緑茶園
TEL 0954-43-0438
佐賀県嬉野市嬉野町大字岩屋川内甲1349
「グリーンレタープロジェクト」のお茶セットは、嬉野市内のお土産屋さんやオンラインサイトで販売中
撮影:大串祥子 取材・文:竹下雄真 編集:服部広子