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北野天満宮、画家を惹きつけた大樹の聖なる力~日本画聖地巡礼7京都

北野天満宮、画家を惹きつけた大樹の聖なる力~日本画聖地巡礼7京都

CULTURE MUSEUM

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日本画専門美術館として半世紀以上の歴史を誇る『山種美術館』。本連載は同館の山﨑妙子館長をナビゲーターに、傑作が生まれた〝聖地〟を巡る。名画の世界を追体験し、その地に立った画家たちの視点を再発見していく。(全12回)

『木精』山口華楊×京都・北野天満宮

山口華楊『木精』(こだま)1976(昭和51)年 紙本・彩色・額(1面)136.3×185.0cm 山種美術館

明治以降の京都画壇を代表する日本画家・山口華楊(かよう)は戦前、自庭の小屋に雉(きじ)や白鷺(しらさぎ)、ミミズク、鳶(とび)などの鳥類のほか、猿、兎(うさぎ)、犬などを飼い、観察し、常日ごろから写生していました。多くの動物画を残し、彼が師の西村五雲(ごうん)と同様に「動物画家」と呼ばれた所以です。

その華楊の名作『木精(こだま)』は京都・北野天満宮にある樹齢600年と伝わる大欅(おおけやき)「東風(こち)」を描いたもの。豊臣秀吉がこの地に御土居(おどい=城壁)を築いた時代には、すでに現在と同じ場所にあったという名木で、いまも成長を続けています。

「動物画家とはいわれるが、私は動物と、それに劣らないくらいの数の樹木、花を描いてきた」と自ら語っているように、華楊はこの大欅にもたいへん興味を引かれたのでしょう。

この作品には、地表に露出し複雑に絡み合う木の根が描かれていますが、「構図を考えていたときに、ふとここにミミズクを配したらどうだろうかと、ひらめいたのである。現実にはこのような光景はなかった。記憶の中のミミズクが、なにかの拍子に立ち現れて、木の根に止まったのである」と華楊は語っています。

御土居の大欅 東風(写真:竹内浩一)

2015年、華楊の弟子にあたる日本画家の竹内浩一先生に、私はこの地にご案内いただく機会に恵まれました。竹内先生は、華楊がこの木を写生した日の夕方、北野天満宮から路面電車で2駅の居酒屋「神馬(しんめ)」に行き、すっかり酔ってしまい、帰宅途中に再び北野天満宮に寄り、大欅の根元でひと眠りしてしまったという逸話を披露してくださいました。その居酒屋はいまも営業中の人気店。次回は是非、私も訪ねてみたいものです。

「華楊先生は老いた禅者なのですね」と、懐かしそうに語られる竹内先生は『木精』を「透明で虚無を求められた作品」と評されました。私にはこの大欅自体も、長年にわたってこの地を守っている神様のような存在に思われ、作品のなかに鎮座しているミミズクは、その神聖さの象徴のように感じられたのでした。

やまぐち・かよう

1899年、京都生まれ。本名・米次郎(よねじろう)。西村五雲に師事。京都市立絵画専門学校研究科修了。官展に出品。五雲亡きあと「晨鳥社(しんちょうしゃ)」の中心的存在となる。1942年、母校教授に就任。戦後は日展で活躍。1971年、日本芸術院会員。1981年、文化勲章を受章。伝統的な円山(まるやま)・四条派の写実から出発し、穏やかな画風で動植物を描いた。1984年没、享年84。

北野天満宮

京都府京都市上京区馬喰町
開門時間:7時〜17時
アクセス:JR・地下鉄二条駅からバスで15分
菅原道真公を御祭神として祀る「北野の天神さま」。古来、入試合格・学業成就・文化芸能・災難厄除祈願のお社として幅広く信仰されている。大欅「東風」は境内西側の「もみじ苑」内にある。
https://kitanotenmangu.or.jp

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やまざき・たえこ

慶應義塾大学経済学部卒業。東京藝術大学大学院後期博士課程修了。学術博士。在学中は日本美術史を学ぶとともに日本画家・平山郁夫氏に日本画の手ほどきを受ける。2007年5月、山種美術財団理事長兼山種美術館館長に就任。著書『速水御舟の芸術』(日本経済新聞社)ほか。各所での講演会などを通し、日本画の普及を幅広く行っている。

【特別展】日本画聖地巡礼―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―

「山種美術館では、名だたる画家たちが制作のために自ら訪れ、描いた実在の場所を日本画の『聖地』と位置づけ、その地がどんな場所なのかを写真や地図などでご紹介し、作品とともにご鑑賞いただく展覧会を開催いたします。現地での写生や画家自身の言葉も合わせて展示し、画家の『聖地』への眼差しを追体験していただくのみならず、なぜ実際の風景とは異なる構図や色調にしたのかなど、作品に込めた想いを再発見していただきたいと思います」(山種美術館 館長・山﨑妙子)

会場:山種美術館 東京都渋谷区広尾3-12-36

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)(9時~20時)

会期:2023年9月30日(土)~11月26日(日)

休館日:月曜日※10/9(月)は開館、10/10(火)は休館

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)

入館料:一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)

https://www.yamatane-museum.jp/index.html

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案内人:山﨑妙子(山種美術館 館長)