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名画が生まれた聖地で見えた、土牛と妻との二人三脚〜日本画聖地巡礼4 徳島

名画が生まれた聖地で見えた、土牛と妻との二人三脚〜日本画聖地巡礼4 徳島

CULTURE MUSEUM

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日本画専門美術館として半世紀以上の歴史を誇る『山種美術館』。本連載は同館の山﨑妙子館長をナビゲーターに、傑作が生まれた〝聖地〟を巡る。名画の世界を追体験し、その地に立った画家たちの視点を再発見していく。(全12回)

『鳴門』奥村土牛×徳島・鳴門の渦潮

奥村土牛『鳴門』(なると)1959(昭和34)年 紙本・彩色・額(1面)128.5×160.5cm 山種美術館

世界最大級とされる鳴門海峡の渦潮。大潮のときは渦の直径が20m以上になるともいわれています。奥村土牛の『鳴門』はその渦潮を描いた名画です。

1959年7月、土牛は妻の郷里・徳島からの帰途、小さな汽船の上からこの渦を見ました。神秘的で雄大な渦潮を目の当たりにして「描きたい」という衝動に駆り立てられたのです。

一回の乗船で渦が見られるのは約5分と短時間であったため、何度か船に乗っては、渦潮の様子を何十枚も写生し、そこで得た印象をもとに土牛は作品を制作しました。轟音を上げる渦の近くでは「後ろから家内に帯を掴んでもらい写生した」と述懐しています。

本作完成後には「自然の大きさはもちろん表わせなかったし、自分の受けたものの一部しか出せなかった。もう一度大きな渦の時に見たいと思っている」と、率直な感想も残しています。

鳴門の渦潮(写真:tomcat/PIXTA)

私が『鳴門』に描かれた渦潮を、初めて〝聖地巡礼〟したのは2014年11月。遊覧船に乗り、轟きとともに白い飛沫を上げて渦巻く潮を、間近で見ることができたのです。

さらに昨年10月。現地を再訪し、今度は高速小型船の海面下1mの展望室から海中の渦潮の様子を見ることができました。まるで、自分が洗濯機の中に入ったかのようなもの凄い迫力に、恐怖心さえ覚えました。

当時、土牛が乗った船は小さく、渦の近くではそれは大きく揺れたことでしょう。齢70の土牛が、スケッチに夢中になりすぎて落ちてしまわないよう、妻が必死に彼の着物の帯を掴んでいたというシーンが目に浮かびました。名作が生まれた背景には、画家を支えてきた妻の細やかな心配りがあったということを、実感できた旅でした。

おくむら・とぎゅう

1889年、東京生まれ。梶田半古に学ぶ。1927年、院展に初入選、1932年に同人となる。1947年、帝国芸術院会員。1962年、文化勲章を受章。1978年、日本美術院理事長。薄い絵具を何重にも塗り重ね、淡い色調によるおおらかで温かみのある作風を確立した。1990年没。享年101。

鳴門の渦潮(うずしお観潮船)

徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦字大毛264番地の1

営業時間:8時30分~17時

アクセス:JR鳴門駅から車で約15分

世界最大級の渦潮には、毎日変化する〝見ごろの時間帯〟がある。観潮の際は潮見表などで事前に確認して訪問することをおすすめします。

https://www.uzusio.com

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【特別展】日本画聖地巡礼―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―

「山種美術館では、名だたる画家たちが制作のために自ら訪れ、描いた実在の場所を日本画の『聖地』と位置づけ、その地がどんな場所なのかを写真や地図などでご紹介し、作品とともにご鑑賞いただく展覧会を開催いたします。現地での写生や画家自身の言葉も合わせて展示し、画家の『聖地』への眼差しを追体験していただくのみならず、なぜ実際の風景とは異なる構図や色調にしたのかなど、作品に込めた想いを再発見していただきたいと思います」(山種美術館 館長・山﨑妙子)

会場:山種美術館 東京都渋谷区広尾3-12-36

TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)(9時~20時)

会期:2023年9月30日(土)~11月26日(日)

休館日:月曜日※10/9(月)は開館、10/10(火)は休館

開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)

入館料:一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)

https://www.yamatane-museum.jp/index.html

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案内人:山﨑妙子(山種美術館 館長)