家光の祖父・家康への「尊崇」を見事に描いた龍子~日本画聖地巡礼3 栃木
案内人:山﨑妙子、山種美術館学芸部
日本画専門美術館として半世紀以上の歴史を誇る『山種美術館』。本連載は同館の山﨑妙子館長をナビゲーターに、傑作が生まれた〝聖地〟を巡る。名画の世界を追体験し、その地に立った画家たちの視点を再発見していく。(全12回)
『月光』川端龍子×栃木・輪王寺 大猷院
1999年に世界遺産に登録された栃木県の「日光の社寺」。中心となるのが、日光東照宮、日光二荒山神社、日光山輪王寺という3つの社寺の建造物です。
特に、徳川家康の霊廟である東照宮と、3代将軍・徳川家光の霊廟である輪王寺の大猷院(たいゆういん)は、「権現造り(ごんげんづくり)」と呼ばれる豪華な造りで、彩色や彫刻による美麗な建築装飾も見どころ。世界遺産の登録に際しても、その創造性と独創性が高く評価されました。
この作品は、そのような日光の霊廟建築らしいディテールをよく捉えています。作者は日本画家の川端龍子。1933年、龍子は「日光に題す」という個展を開き、東照宮の陽明門(ようめいもん)や眠り猫から、男体山(なんたいさん)、奥日光の石楠花にいたるまで、多彩な主題による作品20点を出品しました。この『月光』では、大猷院の拝殿を対象として、下から上に仰ぎ見る視点のもと、建物の一部を切り取ったような構図で描き出しています。
家康の東照宮に比べて、家光の大猷院は派手さが抑えられた印象を受けますが、それは、祖父である家康公を凌いではならない、という遺言を家光が残したからだといわれます。この作品で大猷院を取り上げた龍子自身も、「華麗な中に多少の渋味を持つところが、家光その人の廟としてふさわしい」という趣旨の言葉を残しています。空にうっすらと浮かぶ月も、華美過ぎない荘厳な建築の風合いとよくマッチしているのではないでしょうか。
(山種美術館学芸部)
かわばた・りゅうし
1885年、和歌山県生まれ。本名・昇太郎(しょうたろう)。洋画を学ぶ一方、雑誌の挿絵を手がける。1913年に渡米。帰国後、日本画に転向。1915年、院展に初入選。1928年、院展を脱退し、翌年、青龍社(せいりゅうしゃ)を設立。「会場芸術」を理念とし、大胆な筆致と躍動感あふれる大画面で異彩を放った。1935年、帝国美術院会員。1959年、文化勲章を受章。没年の1966年には、居宅に近い東京都大田区の池上本門寺大堂天井画として奉納すべく『龍』を描いたが未完のまま同年没。享年80。
輪王寺 大猷院
栃木県日光市山内2300 日光山輪王寺
東武日光駅から車で約10分
日光山輪王寺にある三代将軍家光の廟所。大猷院とは家光の法号のこと。祖父である家康を深く尊敬していた家光の、死後も家康に仕えるという遺言により、4代将軍家綱によって建造された。
【特別展】日本画聖地巡礼―東山魁夷の京都、奥村土牛の鳴門―
「山種美術館では、名だたる画家たちが制作のために自ら訪れ、描いた実在の場所を日本画の『聖地』と位置づけ、その地がどんな場所なのかを写真や地図などでご紹介し、作品とともにご鑑賞いただく展覧会を開催いたします。現地での写生や画家自身の言葉も合わせて展示し、画家の『聖地』への眼差しを追体験していただくのみならず、なぜ実際の風景とは異なる構図や色調にしたのかなど、作品に込めた想いを再発見していただきたいと思います」(山種美術館 館長・山﨑妙子)
会場:山種美術館 東京都渋谷区広尾3-12-36
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)(9時~20時)
会期:2023年9月30日(土)~11月26日(日)
休館日:月曜日※10/9(月)は開館、10/10(火)は休館
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
入館料:一般1400円、大学生・高校生1100円、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)