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30歳年下のマルタへ フロイト博物館で発掘された小さな恋の物語

30歳年下のマルタへ フロイト博物館で発掘された小さな恋の物語

TRAVEL 2024.08  ウィーン特集

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精神分析学の創始者であるジークムント・フロイトの足跡をたどることができるフロイトミュージアム。フロイト自身が住み、診療を行っていた場所は、精神分析学の発祥の地であり、近代精神分析学の礎が築かれた場所でもある。1891年から第二次世界大戦勃発前まで、彼はここで診察と研究を続けていた。2020年に大規模な改修を経てリニューアルオープン。これまでは一般公開されていなかったフロイトの書斎を含むプライベート空間も公開された。

彼の書斎は多くの患者と向き合い、彼の理論を練り上げた場所。デスク、椅子、患者が横になって話をするために使われていた精神分析の象徴ともいえるカウチほかを展示。各部屋も当時撮影された写真を元に忠実に再現。床、扉、ドアノブ、収納スペース、階段、緑豊かな中庭への眺めなど、ジークムント・フロイトの足跡を辿ることができる。

ミュージアムの展示物には、フロイトの手紙や日記、家族写真なども含まれ、これらの資料を通じて、彼の個人的な一面や家族との関係も垣間見ることができる。そんな中、博物館のスタッフが「最も興味深く、この博物館の宝物」として案内してくれたのが、小さな箱。一見すると何の変哲もない(薄汚れた)白い小さな箱なのだが、しかしよく見ると文字が書かれている。それはフロイト自身による「私の愛する21歳のマルタ“ちゃん”、誕生日おめでとう。貧しいけど幸せな男より」という愛のメッセージ(箱の中にはハンブルクで買ったアクセサリーが入っていたらしい)。

このロマンチックな一文が書かれた小さな白い箱が見つかったのは、わずか7年前。「何も入っていない」と放ったらかしにされ倉庫で眠っていたトランクを偶然開けたスタッフが発見。心理学者フロイトの書いた心理学にまつわるどんな文書からも決して伝わらない、「人間フロイト」を伝える貴重なものだと同時に、「彼の生きていた証、足跡を伝える」博物館の目的を最もよく表す「宝物」でもあるという。

人が何かを決定する際には、「意思だけでなく不安や隠れているものも大いに作用する要素となる」。そんな深層心理の一部を表す言葉も残しているフロイト。マルタより30歳も年上、“52歳のおっさん”が21歳の“マルタちゃん”に贈った愛のメッセージ。その背後にある深層心理を、当時のフロイトにあって尋ねてみたいものだ。

写真 秋田大輔
取材・文 山下マヌー
協力 ウイーン市観光局、オーストリア大使館観光部オーストリア政府観光局

ウィーンへの翼
東京国際空港(羽田空港/HND)からANA直行便利用でウィーン国際空港(VIE)まで約14時間(毎週月・木・土発)。
ウィーン国際空港から市内まで快速電車(CAT)で約16分、タクシー、バス共に約30分。
帰国はウィーン国際空港(VIE)からANA直行便で東京国際空港(羽田空港/HND)へ(毎週火・金・日発)。

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