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建築ウォッチングが楽しいウィーン ザハ・ハディド設計の図書館にも注目

建築ウォッチングが楽しいウィーン ザハ・ハディド設計の図書館にも注目

TRAVEL 2024.08  ウィーン特集

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ネオ・ゴシック、ネオ・ルネサンス、ネオ・バロック、アールヌーヴォー…。様々な時代の様々な様式の建築物が並ぶウィーン。旧市街を囲んでいた城壁の内側、リングシュトラーセエリアに点在するウィーン市庁舎、オペラ座、国会議事堂などの美しい姿は建築に興味がない観光客でも魅せられてしまう。ウィーンを代表する、ある意味“観光客向けアイコン的建築物”だけに目を奪われがちだが、実はそれらの影に隠れて(という言い方も変だが)市民の日常の風景の中にもアートとデザインに凝った建物が存在する。

かつて郵便局として使われていた建物はオットー・ワーグナーの世紀末建築の傑作といわれているもの。ワーグナーは建物だけでなくインテリアやソファーなど、スイッチに至る細部にまで拘った、もはや「作品」とも言うべき建築。現在は郵便局としての役割を終えたものの、一階は誰でも入ることができ、ロビーに併設されたカフェでメランジェを飲みながら、ワーグナーの構築した空間に浸ることができる。

上の郵便局同様、かつての役割を終え姿を変えて活用されているのが旧ウィーン証券取引所。こちらの一階部分にある花とインテリアショップ「Lederleitner」は生活に花が欠かせないウィーンの人々にも人気が高く、美しい切り花、植物が印象的にディスプレィされている。

1964年完成のハンス・ホラインの最初の作品で後にプリツカー賞を受賞したのは、コールマルク通りに存在するわずか10坪ほどの「レッティ蝋燭店」(現在は宝石店)。そのハンスが1990年にシュテハン大聖堂の向かいに建てた「ハースハウス」にも足を向けたい。

ガラスと石材を組み合わせたデザインのハースハウスは、当時「歴史的且つウィーンを代表する大聖堂の近くにこんなものは相応しくない!」と、反対意見も多くあったというが、今では彼の代表作として高く評価され、ウィーンの風景の一部となっている。

「相応しくない」繋がりでもうひとつ見ておきたいのが、アドルフ・ロースの代表作「ロース・ハウス」。「王宮の向かいにこのようなものは相応しくない」と、かなりの批判もあったらしいが「装飾は悪だ」という彼の考えを具現化した素朴な建物は、ハースハウス同様、街の風景として溶け込んでいる

溶け込んでいると言えば、街の中を縫うように走るトラムもまたデザインに少しばかりこだわりを見せる。30近くもの路線を持ち、世界でも有数の路線網を新旧様々なデザインのトラムが駆け抜けている。1995年に導入されたType A、Type Bは路面から車両までの高さが18cmと、世界一の低床でハンディキャップの人にも優しいデザインとなっている。しかもそのデザインは、あのポルシェが担当したという。まさに実用と遊びと美しさを兼ね備えたトラム。また、電車の駅の中には「カールスプラッツ駅」のようなオットー・ワーグナーがデザインした名建築もさり気なく存在していて、ウィーンの公共デザインや建築に対する取り組みとこだわりがとても羨ましく感じるのだ。

もう一つオススメしたい場所が、ウィーン経済大学。ザハ・ハディドが設計した図書館と学習センターは、2013年に完成した現代建築の傑作。未来的かつダイナミックな外観で、外装にはガラスとコンクリートが使用され、内部には広々とした学習スペースと自然光を取り入れた設計が美しく、こんな素晴らしい建物を利用できる学生たちが羨ましい。ハディドの独特なスタイルと革新的なデザインは、建築界からも高い評価を受けているのだが、ハディドと聞いて「東京オリンピックの最初のメイン会場のデザインコンペで選ばれた人」と思い出した人もいるのではないだろうか。予算削減のため廃案となったのだが、もし完成していたら、この大学のデザインの数倍規模の美しいものが誕生していたのだろうと想像する。

そのほかオーストリアのガウディと称され、宮崎駿にも影響を与えたフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーによる世界で最も珍しい市営住宅、「フンデルトヴァッサーハウス・ウィーン」。その先に位置する彼のライフワーク作品が展示されたクンストハウスなど、ウィーンはユニークな建築物の宝庫。
次のウィーン、ポルシェデザインのトラムに乗って街中の名建築を回ってみてはどうだろう。

ウィーンへの翼
東京国際空港(羽田空港/HND)からANA直行便利用でウィーン国際空港(VIE)まで約14時間(毎週月・木・土発)。
ウィーン国際空港から市内まで快速電車(CAT)で約16分、タクシー、バス共に約30分。
帰国はウィーン国際空港(VIE)からANA直行便で東京国際空港(羽田空港/HND)へ(毎週火・金・日発)。

写真 秋田大輔
取材・文 山下マヌー
協力 ウイーン市観光局、オーストリア大使館観光部オーストリア政府観光局

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