ブルックリンで70年。老若男女に愛される老舗が見てきた街の歩み〜ニューヨーク、ヴィヴィッドに街を彩る最旬ドーナツ-1
ハンバーガーにピザ、ベーグル……アメリカが発信源の著名な料理は数あれど、実は甘味なくして語れないのがこの国の食文化。中でもドーナツは、老若男女にこよなく愛されつづける定番メニューだ。店や流行がつねに移り変わる大都市ニューヨークでもそれは同じ。街と人の変化を見守ってきた、ブルックリンの名店を訪ねた。
昔ながらの風景を保ちつつ、新たな価値を創りたい
ブルックリンのウィリアムズバーグに店を構える「ピーター パン ドーナツ & ペストリー ショップ」は、創業約70年の老舗として長きにわたりこの地の発展を見届けてきた。壁一面をオーセンティックなドーナツが彩り、奥にはコの字形のカウンター席が。店内は平日でも朝から多くの人で賑わい、列が途絶えることはない。デジタル化が進むこの街でめずらしくキャッシュオンリーを貫くが、そんなことはおかまいなし。道路作業員からベビーカーを押す母親まで、さまざまな客が店を訪れる。
「あらゆる人やものごとが集まるのが、ブルックリンのおもしろいところ」と、オーナーのディミトリさんは話す。彼の父親は70年代にギリシャから移住し、90年代初めに創業者よりこの店を引き継いだ。「幼少期からよく店を訪れていたし、学生の頃はアルバイトもした。この店はみんなの交流の場でありつづけているんです。ドーナツはニューヨーカーにとって、幸せな気持ちを運ぶ“コンフォートフード”。よいことがあれば欲しくなるし、悲しいときには気分を和らげてくれる。レトロなカウンター席は人々のつながりを生むから、合理的に席数を増やさず、あえてそのままに」
ドーナツのほか、ベーグルやコーヒーがイートイン可能。人気の定番ドーナツに加え、地元のメキシカンレストランなどとタッグを組み、新メニューの開発にも勤しむ。内装はもちろん、働く店員のカラフルな制服もオールドアメリカンな趣を感じさせるポイントだ。日本で2022年に公開された映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』では、ゼンデイヤが演じたヒロインのアルバイト先としてこの店を完全再現したセットが使われ、大きな話題となった。
Peter Pan Donut & Pastry Shop
727 Manhattan Avenue, Brooklyn, NY 11222
www.peterpandonuts.com
案内人:ヒロ・ヨネモト
写真:ジェイコブ・サドラック+キャロル・クルス
機材提供:CSIレンタル
取材&文:山下美咲