世界遺産の中を走る赤い列車 ベルニナ・エクスプレスで巡るアルプス絶景旅

ベルニナ・エクスプレスが走るのは、ユネスコ世界遺産に登録された「レーティッシュ鉄道アルブラ線・ベルニナ線」。その中でも、サン・モリッツとイタリアのティラノを結ぶベルニナ線は、アルプスの峠を越えて文化の境界をまたぐ“走る世界遺産”。
標高429mのティラノから最高地点であるオスピツィオ・ベルニナ(標高2,253m)を経て、サン・モリッツ(標高1,775m)まで。約2時間で高低差約1,800mを駆け抜けるというルートは、鉄道技術の粋を集めたもの。
途中、196本の橋と55本のトンネルがあり、ブルージオの360度ループ橋やランドヴァッサー高架橋など、鉄道ファンならずとも心を奪われる構造物が次々と登場する。
車窓からは、モルテラッチ氷河やラーゴ・ビアンコなど、鉄道でしかアクセスできない絶景が広がり、まさに“世界遺産の中を走る”という贅沢な体験が味わえる。


ベルニナ・エクスプレスの魅力は、何といってもそのパノラマ展望車両。大きな窓からは、春から夏にかけてのアルプスが織りなす色彩のコントラストが、まるで映画のスクリーンのように流れていく。
山の白、湖の青、草原の緑・・・その組み合わせは、自然が描いた絵画。氷河や高山湖、谷を縫うように走る線路、鉄道が旋回するループ橋など、鉄道ファンでなくても思わず息を呑む景観が次々と現れる。ただ窓側の席に座っているだけで、アルプスの自然が目の前に現れては去ってゆく。


サン・モリッツへ向かうベルニナ・エクスプレスの旅は、風景だけでなく文化の境界も越えていく。イタリア語圏からロマンシュ語圏へ、家々の建築様式、畑の風景も少しずつ変化していく様子が車窓から見て取れる。
未だ争いが絶えない世界。国境を越えるという行為は、本来はこんなにも穏やかでピースなものなのであるはずではないのか?と、そんなことを考えさせられる。言語が変わり、空気が変わり、風景が変わる。それらすべてを体験できるのもまた、この列車の魅力。


ベルニナ・エクスプレスは、「目的地に行くための列車」ではない。「乗ること自体が目的になる旅」なのだ。快適で静かで乗り換えなしで絶景を堪能できるのも、旅の質を高めてくれる。「一生に一度は乗るべき」といわれるベルニナ・エクスプレス。時間と文化を越えていく感覚をも味わえる走る世界遺産として、乗った人の記憶に深く刻まれることは間違いない。
次の旅先に迷ったら、ぜひこの赤い列車に乗ってみてほしい。アルプスの絶景とともに、心と身体がゆっくりと越境していく。
取材・文・写真 山下マヌー
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