シルクロードは麺を伝えたか? イタリアのピッツォッケリと日本の蕎麦の謎


日本の蕎麦、北イタリアのピッツォッケリ
地理的にも文化的にも、まったく異なる背景を持つこの二つの料理には、驚くべき共通点がある。どちらも「そば粉8割・小麦粉2割」の、いわゆる“二八”の割合で作られている。
日本の伝統的な麺料理として、江戸時代から庶民の味として親しまれてきた蕎麦。一方、ピッツォッケリはロンバルディア州ヴァルテリーナ地方の郷土料理。バターやチーズ、キャベツとともに食される素朴なパスタ。 この偶然とも思える一致に、今回の旅の想像はふくらむ。もしかすると、遥か昔、何かがこの二つをつないだのではないか──そんな空想が、旅の楽しみをさらに深めてくれるのだ。

中国・青海省の遺跡からは、約4,000年前の麺の化石が発見されていることは知られている。アワとキビ粉を使った、現代の麺とは少し異なるものだが、すでに人類が穀物を練って麺状に加工していたことを示す証拠となっていて「現代における最古の麺」。ということは、麺は確実にユーラシア大陸を横断して広がっていたと想像できる。つまりシルクロードは絹や香辛料だけでなく、食文化も運んだ道だったのかもしれないのだ。 日本の蕎麦とイタリアのピッツォッケリに直接のつながりはない。しかしながら、まったく異なる土地で同じような配合にたどり着いたという事実は、共通する人類の知恵と風土の力を感じさせ、なんとも興味深いではないか。

蕎麦という植物は、雑草に近い強さを持つ。痩せた土地でも育ち、寒冷地にも適応する。
日本では信州が名産地として知られ、標高の高い山間部で育てられてきた。 一方、ピッツォッケリの故郷・ヴァルテリーナ地方も、アルプス山脈のふもとに広がる厳しい土地。 厳しい環境に加え、豊かな水に恵まれているのも共通している。日本アルプスの雪解け水、アルプス山脈の清流…水は命を育み、蕎麦はその命をつなぐ糧となったに違いない。

蕎麦とピッツォッケリ。呼び名は違っても、遠く離れた土地で“二八”の知恵が生まれ、今も受け継がれているという事実。 誰かが意図して伝えたわけではなく、風土と人の工夫が似たような答えにたどり着いたということが、偶然以上の意味と旅先で得た知識と興味を深くしていく。
正直なところ、シルクロード=麺ロードだったのかどうかはわからない。
謎は謎として取っておいたほうが良いこともあるし、謎に答えを出さなくてはいけないというわけでもない。ところで、日本の蕎麦とイタリアのピッツォッケリ、味はどう違うのか?それは是非、現地に行かれてご自身で確かめてほしい。
取材・文・写真 山下マヌー
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