モロッコ・シャウエンブルーに心の色重ね…旅人は「自分の青」を持って帰る
シャウエンが「青い街」と呼ばれるようになって以降、街の時間は少しずつ変わり始めた。かつて農業と手工芸が主役だった静かな山間の町に、カフェやゲストハウス、写真スポットを案内するガイドが生まれ、青は単なる色ではなく、街の経済を支える“資源”へと姿を変えた。「青が街を動かした」というわけだ。
観光客が増えれば、次に必要なのは青の維持である。街には「年に数回は塗り替える」といった暗黙のルールがあるらしい。ただし、塗られる青は家ごとに微妙に違う。「同じ青は二度と作れない」と地元の人は言う。青に白を足す人、緑を混ぜる人、日差しの強さを考えて濃くする人──街の青は“レシピのない青”。その日、その家、その人の気分で生まれる青が街の表情と気分を毎日少しずつ変えていく。つまりシャウエンの街に存在する青は永遠に終わることのない青であり、常に変化し続ける「青の空間」だということ。

街の青が最も美しく見える瞬間は、街そのものが自然と呼応するときだ。シャウエンは山々に抱かれ、豊かな水源と森に恵まれている。青は空と水、緑は森と大地。街の色彩は、自然の色をそのまま写し取ったようでもある。雨の日には青が深く沈み、晴れた日は光を反射して明るく輝く。季節や天候によって青の表情が変わるのも、シャウエンブルーの魅力のひとつ。青は街の美学であると同時に、街の“リズム”をつくる色でもある。
しかしながら、旅人にとってのシャウエンブルーは、単なる景色ではない。落ち着き、孤独、広がり、祈り、記憶──青が持つ多様な意味が、旅人の心のどこかと重なり合う。
この街を後にするとき、旅人が持ち帰るのは青い写真だけではない。心の奥にそっと刻まれた、自分だけの青。その青こそが、シャウエンブルーの本当の意味なのかもしれない。

写真 宮澤正明
取材・文 山下マヌー
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