モロッコ・シャウエンに残る青の起源と物語 なぜ街は青に染まったのか
シャウエンの街は青推し。それもかなり強烈な推し。壁も階段も扉も青青青…。それは巨大なキャンバスに青色の絵の具を撒き散らしたようでもあり。その青を見た観光客が必ず疑問に思い、そして確かめたくなること。
それが「この青はいつから?」という疑問。実際に自分もそうで、その疑問を解決すべく現地の人に聞いてみることにした。
最初に聞いた“青の起源説”は、「ユダヤ人が自分の家を示すために青く塗った」というもの。15世紀にこの地へ来たユダヤ人が、家の入り口を青く塗り始めたという説。その説の裏取りのため、他の人にも聞いて確かめてみることに。すると、「それは真実ではありません」と言う。
その理由として「当時モロッコにはユダヤ人が至る所に住んでいたので、青い家だけで区別するのは無理があるから」と。なるほどそう言われるとそんな気もしてくる。なので「青=ユダヤ人の家」という説はどうも怪しい。

次に聞いたのは「蚊よけ説」。シャウエンは雨が多く夏は湿気もあり蚊に悩まされていたという。そこである女性が「蚊はきれいな水を嫌うから、家の入り口を青く塗れば蚊がいなくなる」と始めたことが周囲にも広がっていったという説。なるほど、当時はおそらく蚊が媒介する病気にも気をつけなくてはならなかったことを考えると、生存をかけたもっともらしい説でもある。
そこで、この節は正しいのかどうか、先と同様、他に人にも同じ質問をして裏取りをしてみる。すると「残念ながらシャウエンには一年中蚊がいるので、効果はゼロ」らしい。青く塗っても蚊は減らないどころか、「蚊にとってはむしろ観光客が増えた分、人の血を吸うチャンスが増えたかもしれませんね」と真顔で言われてしまう始末。

結局のところ「誰が最初に塗ったか」は謎のまま。けれどその曖昧さこそが、この街の青をより魅力的にしているのだといえるのだ。青は魔除けであり、境界を示す色であり、涼感をもたらす色でもある。人々がそれぞれの物語を語り継ぐことで、青は単なる「青色」以上の意味を持つようになった。シャウエンブルーは「真実」よりも「物語」によって輝きを増しているのだ。
写真 宮澤正明
取材・文 山下マヌー
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