奇跡の青の循環〜メキシコ、マヤブルーの不思議-5
ユカタン半島に点在するセノーテについては、本誌特集の中で詳しく解説しているのでここでの解説は簡単に。セノーテとは「地下に染み込んだ雨水が地下水脈となり、その一部の地表が陥没し池のような状態」になっている場所のことで、池の下には洞窟のような水路が流れている。地下水は地表の温度の影響を受けにくいため、セノーテの水温も年間を通じてほぼ同じ、25度前後を保つ。
潜るのにはウエットスーツを着用しないと少し寒いが、水面で浮いたり泳いだりするにはスイムウェア一枚で十分。この神秘的な世界に浮かび、一体化することを勧める。
ユカタン半島には無数のセノーテがあり、現在わかっているだけでも3500。中にはグランセノーテなどのように、メジャーな観光スポットとなっているセノーテもあり、時間によっては大勢の人が押しかけていて、「写真で見た神秘の世界とは違う」ということもある。また、某TV番組や映画で有名になったセノーテの中には、写真撮影する観光客のために元々はなかったステージをセノーテの真ん中に設営。撮影のためにステージ前に順番待ちの列ができている。もちろんそうして撮った写真は、それはそれで素晴らしい思い出の一枚となるし、それが悪いというわけではない。
しかしながら、マヤの人々にとって「神と繋がる」聖なる場所でもあった、神聖なセノーテに行くのなら、なるべくシンプルで人の手の入っていない場所に行くのがいい。
もしあなたがダイビングライセンスを持っているのなら、絶対に潜るべき。なんの疑いもなく潜るべきだ。今回同行したカメラマンの高砂淳二氏は、過去世界各地の海で潜り、2022年ロンドン自然史博物館(大英自然史博物館)主催の「Wildlife Photographer of the Year」自然芸術部門で最優秀賞を受賞している。その彼に「今までで最高に幻想的な光景」と言わしめたのが、今回の「翼の王国」メキシコ特集の中で紹介しているセノーテに広がる洞窟水路。
太陽の光と水の青とが混ざりあって映し出される、ここでしかありえない「絶景」。「この光景を見るためにダイビングを続けてきたのだ!」と、そう心から思えたのはホントだ。
写真で見ると水面が見えているのがおわかりだと思う。つまり水面からわずか数メートルのところにこのような素晴らしい光景があるということ。この僅かな距離を進み、体験できるかどうかで、旅の完成度とその人の感性度が変わってくることは間違いない。セノーテに限らず、感動までの距離を縮めるために、必要なものを準備して旅に出るのがいいのだ。
セノーテ川の水が地下で繋がり、再び海へ流れ込む。流れ込んだ水はメキシコの強烈な太陽の光で蒸発して雲になり、その雲から雨が落ち大地を潤し、大地に染み込み再びセノーテへと繋がる。そして再び海へと流れ込む・・・。もう何千年も前から続くMayaブルーの循環が作り出したブルーホールに浮かび、ただそんなことをボーッと考えたりする。
取材・文:山下マヌー 写真:高砂淳二