マレーシア「マジェスティックホテル」で感じるイギリス統治の面影
クアラルンプール(KL)でイギリス統治時代のノスタルジックな空気を感じたければ、迷わず旧KLセントラル駅周辺に行くべき。
1910年(駅の開業は1886年)に建造されたマレーシア最古の駅だが、2001年、新しい駅ができたことで中央駅としての役割を終えた。モスク様式と西洋様式の両方が取り入れられた建物は、歴史的建築物としてその美しい姿を残している。一時期ホテルとして利用されていた時期もあったが、現在は建物を残すのみ。東京駅ステーションホテルがリノベーションにより復活したように、この素晴らしい建築を活かしたホテルの復活を願う。
遠路を挟み、旧駅の正面に建つのはマレー鉄道事務局ビル。1917年に建設された歴史的建築物で、かつてはマレー鉄道の本部として機能していた。建物の本によれば「イギリス植民地時代の影響を受けたネオ・モーリッシュ様式で設計され、アーチ型の窓や装飾的な屋根が特徴的」な建物ということ。
KLタワー、世界一のツインタワー、世界2位の高層ビルなど、なにかと上へ上へと目指しているようにも感じるKL中心部の開発だが、鉄道に乗って多くの人々が出会いと別れを繰り返していたかつての中心部には今なお素晴らしい建物が残され、一部は現役で利用されている。
人の往来が盛んなことから、駅の開業間もなくしてホテルが建った。1932年に建設されたマレーシア初ともいえるラグジュアリーホテル、マジェスティックホテルだ。サマセット・モームや各国王族など国内外のVIPやセレブを多く受け入れてきたホテルだったが、その後KLホテル競争の激化により1980年代初頭に閉鎖。家具や調度品の全てがオークションで売られていったという。
ホテル廃業後、建物の歴史的価値から、国立美術館として利用されていたのだが、2012年に名門ホテルを復活させるべくマレーシアの財閥によりホテルとして復活。国の文化遺産に指定されたマジェスティックウィングは、建物の外観だけでなくロビーや客室のデザインから、スモークハウス、ドローイングルーム、バーなど、ファシリティのほぼ全てを当時の姿のままに再現、イギリス統治時代を彷彿とさせる。
旧KLセントラル駅周辺に色濃く漂うノスタルジックな景観だが、それを最も楽しめる場所がマジェスティックホテルのプールから望む景色だと確信している。プールサイドのデッキチェアに横たわれば、左に鉄道公社の建物が、その先には旧セントラル駅、さらにその向こうに見える近代的な高層建築は、世界2位の高さを誇るムルデカビル…。この景色は過去と現代のマレーシアを繋ぐまさに“HOT SPOT”なのである。
マジェスティックホテル
5 Jalan Sultan Hishamuddin, Kuala Lumpur, Malaysia, 50000
TEL +60 3-2785 8000
写真・文 尾嶝太文/山下マヌー