チャイとシーシャの本場イスタンブール 路地裏で味わう本物の味
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イスタンブールの路地を歩いていると、まず目に入るのが小さなガラスのカップに注がれた濃い赤茶色の飲み物――それがトルコの「チャイ」だ。意外かもしれないが、トルコの人々が日々親しんでいる飲み物といえば、実はチャイなのである。トルココーヒーが世界遺産に登録されるほどトルコの伝統文化の象徴である一方、街中で目にする光景は圧倒的にチャイを飲む人々の姿である。
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トルコでのチャイの人気の根底には、20世紀に入ってからの社会的な変化がある。1920年代ごろ、黒海沿岸で本格的な茶の栽培が始まったのを機に、チャイが国内で広まった。トルコ人が飲むチャイの量は驚くべきもので、1日に20杯以上を飲む人も珍しくない。街角のカフェからバザールの片隅まで、どこに行ってもチャイを飲む姿を目にする。実際、かつてはアナトリアでの客人に対するもてなしの方法として、重要な客には淹れたてのトルココーヒーを、それほどでもない客には作り置きできるチャイが出されていたという。しかし今や、誰もが気軽に楽しむことができるチャイこそが、トルコ社会の心地よい日常を象徴する飲み物として人々に愛されている。
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また、トルコのチャイには「色」がとても大事だと言われている。チャイはガラスの小さなカップで提供されるのだが、チャイの色の美しさを引き立たせるためとされている。さらに、ガラスが薄ければ薄いほど美味しいとされているのも興味深い。熱いチャイが注がれた薄いガラスのカップを持つのは、相当熱く難しいのだが、トルコの人々の指の皮が厚いのか、慣れているのか軽々とガラスのカップを持ち上げ、チャイを楽しんでいるのだ。
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チャイと並んでトルコの路地裏で親しまれているものといえば「シーシャ」(トルコではナルギレと呼ばれることが多い)、水たばこである。日本でも近年シーシャカフェが流行しているが、本場のシーシャ文化は一味も二味も違う。トルコのシーシャカフェには、バラエティ豊かなフレーバーと、100種類近いパイプが並んでおり、スタッフが熟練の技で火加減を調整し、滑らかな煙を楽しませてくれる。グランドバザール近くには、1710年に建てられたイスラム神学校跡地を利用したシーシャカフェがあり、その歴史的な雰囲気の中でシーシャを楽しむのは、特別な体験である。1930年代から営業しているこのカフェは、オスマン帝国時代にアラビアから伝わったとされるシーシャ文化が現代まで引き継がれている。
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オスマン帝国時代、シーシャは単なる娯楽ではなく文化的なシンボルであった。宮殿には警備兵がシーシャを楽しむための専用の部屋があったことからもわかる。シーシャの煙が漂う空間で交わされる会話や、人々の繋がり――こうしたものがトルコの人々にとってどれほど貴重で、深いものであるかを感じさせる。シーシャとチャイ。それはトルコの人々の暮らしにおいて欠かせない要素として共存し、共鳴し合っている。
取材・文・写真 山下マヌー