シドニーで着々と進む“環境先進”大規模開発プロジェクト
オーストラリアの生活に根付いているという「スローライフ」の概念。「心配だからどうしよう」と慌てる=ファストではなく、「なんとかなる」とゆっくり=スローに考える。これはなにも自然の中に住む人だけでなく、大都市でも当たり前のマインドなのだという。そんな人生のあり方を探る特集から、今回はシドニーの街づくりについて紹介する。
歴史と開発が共存する、最先端でスローな都市
スローライフを実践するための場所は自然の中だけではない。都市でもその生き方を貫くことは可能だ。オーストラリア近代史の始まりとされるのが、最初の入植地であるシドニーのロックスエリア。経済を最優先するならばとっくにここは取り壊され、再開発の中に取り込まれていたに違いない。しかし開発の波はこの手前まで。自然を守ろうとするこの国の人々は、都市をも守っている。
とはいえ、その発展のためには人を呼び込む必要があり、現在シドニー中心部では大規模開発プロジェクトの「グリーンスクエア」が進行中。豪州最大の雨水活用施設や太陽光発電、ライトレール(軽量軌道交通)や自転車専用道を備えた“環境先進地区”を目指しているという。新しい価値観と古い伝統とカルチャーは、競い合うのではなく各々を尊敬し合っているかのように共存。ほかにない景観を作り出していく。
豪州独自の「グリーンスター認証」の基準を満たすグリーンビルディング。光や熱効率への工夫が随所に施され、図書館を吹き抜けの半地下にすることで自然光を呼び込むと同時に、冷暖房の効率化を図る。
ロックスエリアにあるオーストラリア最古のホテル。「心がけているのは、昔と極力変わらぬサービスの提供。建物の外観はほぼ変わらず、自家製ビールの醸造方法も昔のままのオーガニック製法を徹底しています。歴史を超えたスローな気分を味わいに来てください」と、オーナーのヘイデンさん。
The Lord Nelson Brewery Hotel
自然が近いということは、それだけ動物たちとの距離も近いということ。道で傷ついた動物を発見したら保護するというルールもある。自然やそこで暮らす野生の生き物との共存。その実践もまたスローライフ。
ヘルスコンシャスな人が多く暮らす都会には、ベジタリアン系のカフェやレストランが点在。味付けは和風だったりメキシカンだったり、チャイニーズだったり。オーストラリアらしくマルチカルチャーが凝縮されている。
写真:高砂淳二 コーディネーション:ジェイ・エイ・リンクス 取材&文:山下マヌー 編集:山下美咲