石垣島から30分 “人より牛が多い島” 黒島で見つけた満天の星と何もない贅沢

石垣島を拠点に毎朝フェリーに乗り、八重山諸島を取材する中、気になっていたのが「黒島」という島。石垣港からフェリーでわずか30分足らず。朝の便でふらりと行ける距離なのは他の八重山諸島と同じ。だけどよく知らないし、知られていない。周りの島好きの知人の中にも、「黒島に行ったことがある」という人は一人もいない。それなら行くしかない。何もないなら何もないことを確かめに黒島に向かうことに。
港を降りてまず目に飛び込んでくるものは…ない。言い方を変えれば、飛び込んでくるのは素朴な島の風景のみ。船着場を一歩出れば牛、牛、牛の牛推し。人ではなく牛感満載で出迎えられる。島の唯一ともいえる観光スポット、黒島研究所の掲示によれば、島の人口221人に対し牛の頭数は2983頭と人の数の10倍以上。島の殆どの面積を占める牧草地を自由に歩き、たまに道を横切っていく牛の姿はのどか。もしくはうららか、さもなければ長閑という言葉以外に思い当たらない。時々ヤギの姿も見かけるが、おそらく彼らはヤギ汁として島民のお腹に収まってくのだろう。目が可愛いだけにちょっと切なくなる。
先程触れた「黒島研究所」にはウミガメの剥製や標本、珊瑚の展示、昔の漁具、黒島の方言など島の暮らしや自然と海に関する資料がぎっしり詰まっていて、小さいながらもアツい展示物が並ぶ。牛の展示はない。残念だ。だが黒島の牛は石垣牛に化けるのかどうかが気になっていたので、そのことをスタッフに尋ねてみる。すると「黒島の牛が石垣に渡り、石垣牛へと姿を変えることはほぼない」らしい。多くは本土に出荷されていくとのこと。




島旅「あるある」の一つが、フェリーの欠航。黒島のようにコンビニもスーパーもない島に足止めされて身動きが取れなくなったらどうする?大丈夫、島には民宿もある。それになにより“なんにもない”がある。
なんにもないことが最大限に生かされるのが、夜空に浮かぶ星。黒島は星空保護区に認定された西表石垣国立公園の一部。光害が少ないため、天の川や南十字星など、普段都会では見ることのできない星々を観察。満天の星空を楽しむことができるのは、なんにもない島だからこそ可能になる。
黒島は“何もしない”を楽しむためにある島。一時間もあればレンタサイクルで一周できてしまうサイズの中、波の音を聞きながらぼんやり過ごす時間は、現実世界の速度を忘れさせてくれる…。それが黒島の最大の魅力なのだ。
取材・文 山下マヌー
写真 高砂淳二
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