丸正餃子に「もり川」のビフテキサンド 本当の大阪の味
新喜劇で繰り出されるコテコテの関西弁に、たこ焼き&お好み焼きといった粉もん文化、通天閣に、道頓堀の動く巨大看板、そして、豹柄ファッションのおばちゃんたち……多くの人々が抱く大阪、そのイメージはこのあたりだろうか。
しかし、案内人は言う。「もちろん、それも大阪なんですけど……、それがすべてじゃないんです」
そこで今回は、生粋の大阪人で花人の赤井勝さんがナビゲートする「古くて新しい、本当の大阪」を知るための、出会いを味わう旅――。
世間に浸透している大阪のイメージに、私はずっと違和感を覚えていました。それが、今回の旅の出発点。改めて大阪を愛する人たちに会い、交わした言葉を紹介することで、もしかしたら、リアルな大阪の魅力を伝えることができるのではないか、そう考えたのです。
映画監督・小林聖太郎さんが、私の抱えた違和感を、じつに見事にたとえてくれました。
「ひと昔前のハリウッド映画が描き続けた富士山、芸者、相撲……ステレオタイプの日本を突きつけられたときと同じ、居心地の悪さなんです。『実際、日本に富士山はあるし、芸者さんもお相撲さんもいますけど、でもそれだけじゃないよ……』と。それなんですよね」
町に出れば豹柄の服を纏い、飴ちゃんをくれる女性もいますし、指鉄砲を向け『バーン!』と撃った(言った)ら『うっ』と唸って倒れてくれる人も、きっと東京よりはたくさんいるのかもしれません。でも、それは、『誰かの期待に応えたい』という大阪人の責任感や、有り余るサービス精神のなせるわざにほかならないのです。
そして、今回お会いした方たち……祭を支え、世界一の桃を育て、人間力あふれる服を作り、そして、笑いのムーブメントを巻き起こす……、普段は多くを語らない、それでも地元の町と、目の前の仕事に誇りを持った人たちがいる。大阪を旅して、そんな、当たり前のことに気づいていただけたら、大阪人の一人として、私も嬉しく思います。
赤井さんが「いまの大阪の最注目スポット」と話す美術館。「館内のカフェレストラン『ミュゼカラト』もオススメです」。5月25日からは展覧会「没後30年木下佳通代」を開催。堂島川沿いのパサージュに鎮座する猫は美術館の “守り神” ヤノベケンジ《SHIP’S CAT(Muse)》 (2021年大阪中之島美術館)。
大阪中之島美術館
ハイブランドが軒を並べる御堂筋に昨年11月に現れたのは、歴史あるお堂と、覆い被さるように建つ高層ビル。この不思議な建物の正体は、奈良時代に開山した古刹「三津寺」。じつは、十代の赤井さんが最初に修行した花店はこのすぐ近くにあったという。
「本堂の花器を引き取り洗うのが、私の仕事でした。言うなれば花人・赤井の原点、それがここ、三津寺なのです」
「1808年に建立され、大戦の戦果を免れた木造の本堂を、いかに次の100年に繋げるかを思案し、土地を有効活用するこの方法に至りました」(住職・加賀俊裕さん)
七宝山大福院三津寺
「大阪の中心部からは少し離れた場所ですが、それでも絶対行く価値ありの、餃子一筋半世紀超の名店です」と赤井さん。
食べ物のメニューは餃子(1人前8個、400円。写真は3人前)だけ。小ぶりで皮が薄く、野菜たっぷりの餃子は、やめられない、とまらない美味しさ。
丸正餃子店本店
大阪・ミナミにあった名店の味を引き継ぎ、一昨年、北新地に移転した人気店。名物「お肉のタルタル」や「ヘレステーキ」はもちろん、「ビフカツサンド」(持ち帰りのみ)も絶品。
「大阪では『肉=牛肉』、『かつ=ビフカツ』です。そんな、なにわの牛肉文化を堪能できる店、それがここ『もり川』です」(赤井さん)。
黒毛和牛ステーキハウスもり川
案内人 赤井勝
65年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。08年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、09年、ローマ法王ベネディクト16世にブーケを献上。13年、伊勢神宮式年遷宮では献花奉納し、17年、フランスのルーブル王宮内パリ装飾芸術美術館で開催の「JAPAN PRESENTATION in PARIS」でも桜の装花を担当。
写真 秋倉康介
編集 仲本剛