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AIに打ち勝つための戦略 大阪の“人間力”をファッションで紡ぐ 

AIに打ち勝つための戦略 大阪の“人間力”をファッションで紡ぐ 

TRAVEL 2024.05 大阪特集

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生粋の大阪人で花人の赤井勝さんがナビゲートする「古くて新しい、本当の大阪」を知るための、出会いを味わう旅――。

案内人が向かったのは、大阪市福島区のアトリエから斬新なファッションを発信し続けるデザイナー・AKIさんのもとだった。

赤井:AKIさんはここ大阪市福島区が地元なんですよね?

AKI:はい。生まれたのも、すぐそこの病院です。

赤井:大阪にも、もちろん大阪以外にも、もっとAKIさんに相応しいオシャレな町があると思いますが……AKIさんが地元にこだわる理由はなんでしょう?

AKI:私はイタリアで修業した経験もあるんですが。大阪はよく、ミラノではなくローマに似ていると言われます。ミラノよりもローマのほうが人情味があるというか、人間臭い町と言われていまして。その例えは、私も正しいと思っていて。大阪ってすごい人間臭い町だと思うんです。

赤井:それは私も同感です。

AKI:赤井さんもそうですが、私も、ものづくりをやってる人間なので。結局、私一人では何も作れないということに気がついたんです。ファッションって、布を織ってくれる人がいて、縫製をしてくれる人がいて、売ってくれる人がいてと、いろんな人にバトンを渡しながら、仕上がっていくんですね。だから、自分がものづくりを追求しようと考えたら、その人間臭い部分を大事にしなくちゃダメなんです。

赤井:なるほど。

AKI:それに、生まれ育ったここ、福島にいると、私自身も自分の人間味、人間臭さが保てる気がしてるんです。仕事で東京にもよく行きますし、先日はニューヨークにも行ってきたんですけれど。いろんな都市と比較してみても、いちばん人間臭さを感じられる町、それが私にとっては大阪、なかでもここ、福島なんです。

赤井:よく分かります。たしかに大阪、とくにこの福島は、少々古い言い方をすれば人情味のある町ですよね。

AKI:そうなんです。あの、少し偉そうな言い方になってしまいますけど、AIに負けない方法って、人間味、人間力を大切にすることだと思うんです。いま、世間で出回っているお洋服って、ほとんどが大量生産品ですよね。それって、あんまり人間が関わらなくてもできてしまう。だから私、考えたんです。人間にしかできないことってなんだろう、AIに勝つための方法ってなんだろうって。そこで導き出した答えは、ものすごく人間臭い仕事、すごく細やかだったり、人の手にしかできない技術を入れたりするしかないと。そのためには、ちょっと面倒でも「私と一緒に仕事してください」と、いろんな人を口説いて、チームを作って。そこに必要なものは人間力、人間味だと思ってるんです。いろんな人の人間臭さが重なり合って一つの服になって、それをお客様が喜んで袖を通してくださって。作り手の人間味が、そうやって誰かの生活のなかに浸透していく、そういう仕事が、AIに負けない仕事が、ここ大阪なら実現できると私は思っているんです。

「世間<自分」な大阪人と、本音のコミュニケーションを楽しんで

赤井:ところで、全国の人の抱いている大阪の代表的なイメージの1つに「豹柄ファッションのおばちゃん」というのがあると思いますが。

AKI:そうですよね(笑)。でも、私も去年〜今年の冬は豹柄のブーツ、愛用してましたよ。

赤井:そうでしたか。もちろん、全員が全員、豹柄を着用してるわけなんてないんですけど、東京で仕事していると思うのは、大阪の人間は自分の個性を大事にしているな、と。その象徴が、豹柄ということなのかなと思うんですが。

AKI:そう思います。よその人と比較してみても、大阪の人は個性豊かな印象が強いです。派手なお洋服を着る人も多いですし。うち、ボウタイ、いわゆる蝶ネクタイをデザインして売ってるんですけど。すごく顕著なのが、東京と大阪、それぞれ百貨店で販売したんですけど、売れ筋がまったく違うんです。めちゃくちゃ派手な柄のボウタイ、大阪ではほんと、あっという間に売り切れてしまうんです。でも、東京ではまったく売れない。

赤井:わかる気がしますね。

AKI:でも、大阪の人のその感覚って、すごいポジティブなことだと思っていて。派手な柄を自分のものにできる人、着こなせる人が大阪には多いんだと思うんです。それはなぜかと考えたんですけど、大阪の人って、ちゃんと自分っていうものを持ってるから、だから、派手な柄ものを取り入れることもできるんじゃないでしょうか。

赤井:東京はじめ、よその町の人は無難なものを選びがちですかね。

AKI:そう思います。でも、ファッションって自己表現のツールじゃないですか。そういうことが、大阪の人はよくわかってるんだと思います。

赤井:大阪人は「自己基準」を大事にするんですけど、東京やほかの地方の人たちは、「世間の基準」を重視するというか。よく聞くのが「あそこはレストランガイドで星2つとった店や」とか、「グルメサイトで評価3.5以上や」とか。東京の知り合いのなかには、そういう評判をすごく気にする人が少なくないんですけど、大阪の友人たちは「星2つ?でも不味いよな」と平気で言う。ま、東京の人も同じようなことは思ってるのかもしれませんが、大阪人はそれ、簡単に口に出すというか(笑)。

AKI:わかりやすい例えですね(笑)。でも、それだけ大阪の人は「世間<自分」、自分がしっかりあるということだと思いますね。

赤井:もちろん、東京やほかの地域の人も自分の意見はあると思いますよ。ただ、少し控えめに発言するというか。それを、大阪人は、イエス・ノーを割とはっきり言ってしまうから、よその人からはそういうところを「ズケズケ」と言われてしまったり(笑)。

AKI:そうですよね(笑)。でも、それだけコミュニケーション能力が高い人が本当に多い大阪ですから。大阪を旅する人は、大阪の人との、本音のコミュニケーションを楽しんでいただきたいですね。

AKI

関西大学法学部卒業後 YOHJI YAMAMOTO氏に刺激を受け、渡伊。ミラノのマランゴーニ学院・ファッションデザインコースを修了。帰国後、YOHJI YAMAMOTO femでシーズン経験後、レディースのオーダー服を開始。その後再びイタリアに渡り、シチリア島パレルモにて伝統的なメンズの仕立て技術を習得し、メンズジレのオーダーを開始。2015年9月、韓国・台湾・日本人によるアジア発デザイナーズブランドJAÀ Studioのメンバーとしてミラノでコレクションを発表。2022年、大阪にアトリエ兼ショップをオープン。大量生産、大量消費、大量廃棄を続けるファッション業界に変革をもたらしたいと考え、自身の店には既製服を置かず、受注後顧客が欲しいと思う服を丁寧に心を込めて作ることを信条とする。

https://akinagai.jp

有名芸能人の常連客も多い、AKIさんオススメのバー。「福島天満宮の脇、宮司さんの妹さんが営む究極に人間臭いお店(笑)」(AKIさん)

BAR KIZAN

大阪府大阪市福島区福島2-8-29

Facebook https://www.facebook.com/BARKIZAN

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案内人 赤井勝

65年、大阪府生まれ。花を通じ心を伝える自らを「花人」と称し、自身の飾る花を「装花」と呼ぶ。08年、北海道洞爺湖サミット会場を花で飾り、09年、ローマ法王ベネディクト16世にブーケを献上。13年、伊勢神宮式年遷宮では献花奉納し、17年、フランスのルーブル王宮内パリ装飾芸術美術館で開催の「JAPAN PRESENTATION in PARIS」でも桜の装花を担当。

写真 秋倉康介
編集 仲本剛

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