生産者を訪れる〜食の知慧 – 山と海、食材が伝統を作る – 4
北陸地方中央部に位置する、日本海側最大の半島「能登」。大部分は石川県に属していますが、実は東側の一部分は富山県氷見市に属しており、その富山県に面した海岸を内浦、半島の西側である日本海に面した海岸を外浦と呼びます。日本 海に長く突き出た半島ゆえに、漁業、水産業が盛ん。一方内陸は、標高200~500mの丘陵が連なった平地が少ない地形では、海と山に囲まれ自然豊か。そこは食材の宝庫。海と山の幸を毎日料理し、食す。そして受け継いでいく。それがごく当たり前のこととして循環している街でした。
新しいものを増やすより、 馴染んだものを活かす方がいい
明治2年創業、銘酒「竹葉(ちくは)」を醸(かも)す「数馬酒造」。5代目蔵元・数馬嘉一郎さんの代から、能登という土地を更に活かした酒造へ。「まず全原料米を能登産にすることを目指しました。品種ごとに農家さんと契約栽培し、自社の繁栄が地域の発展に繋がる仕組みを大切にしています。仕込み水は山の湧き水を使用。世界農業遺産に認定された能登で酒蔵を営む意義を見つめ直し、持続可能な生産体制に。四季どころか旬が2週間ごとに移ろう能登にいると、自然に生かされていることを実感する日々です」
数馬酒造
石川県鳳珠郡能登町宇出津ヘ -36
TEL 0768-62-1200
(営)9:30~17:00
(休)日曜・祝日
冷蔵熟成が、栗本来の甘みを最大限引き出す
案内人であるシェフ・北崎さんが「独自の技術でポテンシャルを最大限まで高めた栗は、砂糖を加える必要がないのではないかと思うほど。料理人やパティシエからの信頼が厚い栗園 です」と話す、「松尾栗園」。「ラトリエ・ドゥ・ノト」でも松尾栗園の栗が使われている。「今 は冷蔵熟成栗を使用した焼き栗ペーストを使って和栗のムースに。しっかりした甘みが特徴です」とシェフ・池端さん。
「ほとんど経験のないまま栗栽培を始め、全て独学。人に教えてもらいつつも失敗と成功を繰り返しながら17年の歳月をかけて焼き栗の味を追求してきた。栗は樹から自然と落ちた瞬間が一番美味しい。そこからは急がないと糖度が落ちる一方。糖度が落ちることを抑えるのは冷却なので、すぐに冷蔵しています。
そして冷蔵熟成を。収穫直後から糖度を測ってグラフにしているのですが、一般の栗の糖度は10度くらいですが、冷蔵熟成した栗は糖度 24度以上に。オリジナル菓子である『焼き栗棒』は冷蔵熟成した栗を焼いてペーストにした後に棒状に型取りしたもの。栗の味だけで勝負しています」
案内人であるシェフ・北崎さんのスープ。「朝市のお婆ちゃんが作ったパンダ豆を水で茹でると出汁いらずの美味しいスープが出来上がります。そこに、春キャベツと豚ヒレ肉を加えてご 馳走に。焼き栗を少し溶かすことで、穏やかな甘味ととろみをつけました」。
松尾栗園
石川県輪島市町野町 粟蔵ニ 80-10
https://www.matsuokurien.com
撮影:鈴木大樹 取材&文:桃本梨恵(Lita) 編集:中野桜子