一期一会の料理と出逢えるレストラン〜食の知慧 – 山と海、食材が伝統を作る – 3
北陸地方中央部に位置する、日本海側最大の半島「能登」。大部分は石川県に属していますが、実は東側の一部分は富山県氷見市に属しており、その富山県に面した海岸を内浦、半島の西側である日本海に面した海岸を外浦と呼びます。日本 海に長く突き出た半島ゆえに、漁業、水産業が盛ん。一方内陸は、標高200〜500mの丘陵が連なった平地が少ない地形では、海と山に囲まれ自然豊か。そこは食材の宝庫。海と山の幸を毎日料理し、食す。そして受け継いでいく。それがごく当たり前のこととして循環している街でした。
自然と密接な暮らしの中、
料理もおのずと一期一会を生かしたものへと変化していきました
2014年9月に開店した「ラトリエ・ドゥ・ノト」。生まれが能登だというシェフ・池端隼也さんはフランスや大阪などで修業後、帰郷。この能登でのレストラン誕生は、全く意図していなかったものだという。「大阪でお店を出すと決めて、時間ができたタイミングに帰郷したんです。そこでこの土地の食と文化に改めて驚き、すぐに大阪の物件をキャンセルしました。能登に惹かれた理由の一つは、まず生産者さんがとても近いということ。今でもそうですが、漁師さんが直接持って来てくれるんです。『今日のこの魚いいぞ』と。それはメニューにはない魚だったりするのですが、目の前にいい魚があるのなら、もったいないじゃないですか。その一期一会のものを逃し たくない。都会は何でも手に入るので、作りたい料理から考えていましたが、今はその真逆。 あるものから知恵を絞ってどう料理するか考えています。だからメニューがしょっちゅう変わるんです。でもそうしていくことが楽しいし、そうしないとここにいる意味がない」
そして、旬というものを更にリアルに感じるようになったそう。『今の時季、玉ねぎしかないのよ』 と言われたら、それを深掘りするしかない。お店を始めた当初は、いわゆる正しいコースを作っ ていたんです。その中に地元の旬の食材との出会いを生かした料理を少しずつ増やしていっ て。10年くらい前から世の中が地方や地方の食にも注目するようになり、更に大胆に舵をきることが出来た気がします。能登は核家族が少なく3世代で住んでいるので、自然とお婆ちゃんの食や知恵を継承していっています。たくさん採れた食材を もったいないから漬けて長く食べる。発酵の代表料理とも言えるかぶら寿司を各家庭で作り、食べることが当たり前の場所ならでは。『あえのこと』という能登の民族行事があるのですが、一定期間田の神様が家に本当にいるかのように振る舞い、もてなすんです。食材と強く結びついた土地であることを象徴している文化だと思っています」
シェフ 池端隼也さん
1979年、輪島市生まれ。「辻調理師専門学校」卒業後、フレンチ「カランドリエ」で修業。2006年に渡仏。ブルゴーニュの星付きレストランに勤め、地元に「ラトリエ・ドゥ・ノト」を出店。
ラトリエ・ドゥ・ノト
石川県輪島市河井町4-142
TEL 0768-23-4488
Lunch:11:30〜13:00(L.O.)
Dinner:18:00〜20:00(L.O.)
https://atelier-noto.com/about/
撮影:鈴木大樹 取材&文:桃本梨恵(Lita) 編集:中野桜子