能登食材の恵みをありのまま表現する〜食の知慧 – 山と海、食材が伝統を作る – 1
北陸地方中央部に位置する、日本海側最大の半島「能登」。大部分は石川県に属していますが、実は東側の一部分は富山県氷見市に属しており、その富山県に面した海岸を内浦、半島の西側である日本海に面した海岸を外浦と呼びます。日本海に長く突き出た半島ゆえに、漁業、水産業が盛ん。一方内陸は、標高200~500mの丘陵が連なった平地が少ない地形では、海と山に囲まれ自然豊か。
そこは食材の宝庫。海と山の幸を毎日料理し、食す。そして受け継いでいく。それがごく当たり前のこととして循環している街でした。
火と水があれば料理はできる。そこに経験と知恵。
原点に今、立ち返る。
石川県出身だというシェフ・北崎裕さんが故郷へ帰ろうというタイミングに、塗師・赤木明登さんから「能登に来ない?」と声がかかる。それによってオーベルジュ「茶寮杣径(そまみち)」が誕生した。「能登は僕にとって無理なく呼吸することができる場所。海と山どちらにも車で15分ほどで行けて、料理をする人にとって最高の環境なんです。そしてその海と山で採れるものに対して圧倒的な知識の蓄積がある人がとても多い。
知識や技術が季節に紐づけられながら代々伝わっていて、みんながそれを楽しんでいます。これは縄文時代から人が住み続けている土地特有の空気感だと思います。自然の前で人間の能力を過信しないでいられる場所なんです」
そう話す北崎さんの料理は能登で更に削ぎ落とされたものに。「砂糖や醤油はあまり使用していません。使うことを否定しているのではなく、それがあったらまた美味しくもなるよねという特別な存在として捉えています。甘みも食材から感じていただくことが多い。調味料より食材をどう使うか。食材の宝庫である能登に長く住むお婆ちゃんなどは、食材が採れる場所からその料理法まで、当たり前のことのようにとても深く知っています。豊穣なる能登にいると、ピーク時には過剰とも言える恵みを無駄にしたくないですし、それを美味しく長く楽しみたいという感覚に。それによって『塩蔵』と『発酵』という二つの保存方法が能登ではとても身近。豊かな食材を大切に長く味わうことにけている能登ならではの料理をゆったりと楽しんでいただけたらと思っています」
「中村好文さん設計である赤木さんのゲストハウスに手を加え、オーベルジュに。天井まで届く本棚、漆塗りの浴槽など他にはない空間。ホテルとはまた一線を画し、田舎の親戚の家に帰ってきたかのようにホッと一息ついてもらえたら」
茶寮 杣径
輪島市門前町内保コ 30
TEL 090-6245-3737
1泊2日2食付き、2名1室での1名料金¥48,000〜[税別/料理は10品ほど、ペアリング込み]全2室
※ IN15:00 〜 OUT10:00
予約は InstagramのDMから@_somamichi
案内人
シェフ 北崎 裕さん(右)
ICU卒業後、京懐石の名店「吉泉」での修業を経て、くずし割烹「枝魯枝魯」の系列店にて料理長に。その後、「里山十帖」にて総料理長を務める。7年働いた後、塗師である赤木明登さん(左)からの誘いで「茶寮 杣径」のシェフに。
撮影:鈴木大樹 取材&文:桃本梨恵(Lita) 編集:中野桜子