新潟・椎谷の百年古民家が息を吹き返す 人口100人の町に年間数千人が訪れる理由
百年息する古民家と、人が織りなす新潟
近年、新潟には、築百年を超える古民家を受け継ぎ、人口の何十倍もの来訪者を迎える小さな集落が点在する。その営みを支えるのは、歴史ある町並みを守りながら持続可能な地域づくりに挑む、若い力。海とともに生きる文化、地元食材を生かした食、そして伝統工芸。

こうした新潟が誇る地域資源と建築資源を結び合わせた“息づく村づくり”は、自然と調和するサスティナブルな未来を描き始めている。

日本海と山脈が編み出す風土との共存


新潟は、特有の地形から、訪れる人にまだ知られざる一面を見せてくれる。新潟の風土は、日本海と山々に抱かれて育まれてきた。冬には雪がしんしんと降り積もり、夏には湿り気を帯びた熱気と雨が大地を潤す。
日本海が運ぶ土砂は越後平野を築き、稲を実らせた。海は魚介を、山は果実や山菜をもたらしてくれる。それらは人々の暮らしを支えてきた。厳しさとやさしさが交わる雪国の環境だからこそ、人々は粘り強さと強い絆を育んできたのだろう。
かつて人口の多い県として栄えただけあり、豪雪や海風に耐えて建てられた日本家屋や古民家は、今も歴史を映すように各地に佇む。そこに若きエネルギーが波動する今、過去と未来が重なり、新たな世界を見せてくれる。
この町で完結することを形にしていきたい

新潟県柏崎市の椎谷(しいや)地区は、人口100人以下の町。だが、ここ5年で幾千の人々が訪れているというのだ。

きっかけは、近隣地区から移住した4人の漁師と、一軒の古民家との出会い。オーナーの大谷廉さんは、当時海外で仕事する傍ら、仲間とこの浜に通い、惚れ込んだ。2018年に古民家を購入し、寒い地域だからサウナを、と着想。家の裏に湧く名水を生かし、自給自足で工事を進めるうち、趣味は本気の事業へと変わった。こうして誕生した「SHIIYAVILLAGE」は漁業とサウナを軸に、地域と共存・再生する場所。
コロナ禍を経て「この町で完結することをしたいと思った。そして町全体を面白くしたい」と大谷さんは語る。何より嬉しかったのは、地元の人々が温かく迎えてくれたこと。「若い人が来てくれて頼もしい。ウェルカムでした」と町内会長は微笑(ほほえ)む。

サウナは全国を回り独学で研究。


「ここで漁業をやりたい」願いを託した海
2018年、大谷廉さんは仲間と、この海で魚突きをしていた際に、運命的に古民家と地主さんに出会った。新潟じゅうの海を訪れた末、この浜を見つけ、10年通うほど惚れていたと言う。
「本気で新潟で漁業をやりたいと思った。もともと地域の漁業のかたとのつてもないのに、無謀だと思われるかもしれないですが、町や海への思いは本気でした。数年で地域のみなさんに色々なことを教えてもらい、漁業をできるように。町内の人があって、今の私たちがあるんです。地域と共存することが一番重要で、その椎谷のカラーで、訪れた人に最高の体験を提供できるようにと漁業にもサウナ事業にも取り組んでいます。もちろん、自分たちが楽しむことも忘れません」と語る。

持続可能な夢と展望は、この海、そして人々があってこそ紡がれる。




SHIIYA VILLAGE
撮影 金子斗夢
取材・文・編集 中野桜子
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