日本の原風景を残す島で、芯からとろける古民家ステイ〜長崎、海と暮らす旅vol.3
海に囲まれ海と生きる、長崎県の人々の生活を感じる旅へ。多忙な毎日に疲れたら、懐かしく美しい景色が広がる小値賀島で、離島暮らしを堪能するのはいかがだろうか。「長崎、海と暮らす旅」のvol.3は、この島で満喫できる釣りや食事づくり体験、古民家ステイをレポート。
島旅で体感する、人々と海との深いつながり
海を渡り、五島列島の北に浮かぶ小値賀島へ。かつてアワビ漁などで栄えた歴史を有するが、今は日本の原風景を残す“美しい村”のひとつとして、懐かしい様相を呈している。実はこちら、“釣り好きの天国”と呼ばれるほどのロケーション。海や釣りがごく自然に人々の生活の一部となり、波止場には釣り竿を手にした島民の姿もちらほら。島のツーリズム協会が手配する「初めての魚釣り体験」では、島の住人を師と仰ぎ、堤防釣りに挑戦できる。
釣れるのは、大半がアジ。リールのついていない延べ竿を渡され一抹の不安を感じるのも束の間、島の“お父さん”たちが優しく迎え入れ、背中を見せて手ほどきしてくれる。インストラクターを務める中川一也さんも、そんな頼もしい“お父さん”の一員だ。「訪れる人に島の暮らしや海での体験を楽しんでもらえるのがやりがい」と話す。暮れなずむ空を見上げて「今夜はイカ釣りに出かける予定」と少年のように目を輝かせ、海という大自然とともにある小値賀での生き方をひしひしと感じさせるのだった。
釣った魚を、夕飯の食卓に並べてもらう
釣果を存分に確保したら、次は“お母さん”にバトンタッチ。滞在する古民家のキッチンで、旬の野菜や魚を中心とした料理を手ほどきしてもらえるのが「古民家で島ごはん」の体験プランだ。料理長は“お母さん”。ハウツーを教えてもらいながら、一緒に食事をつくっていく。
濱元照美さんのご家族は、牛を育てる肉用牛農家。小値賀島の名物となっている慣習に牛の放牧があり、そんな“小値賀らしい風景”の裏話も話題にのぼる。この日のメニューは、20匹近く釣れたこのうえなく新鮮なアジの唐揚げと押し寿司、ウニとトコブシの茶碗蒸しに、小値賀の名産であるイサキのマリネサラダとタイのすり身のお吸い物、自家製の漬物。アジは港ではらわたを取り除く下処理をしているため、洗って水気を拭いたらすぐに塩コショウと小麦粉をつけ、そのまま揚げる。「大変やけん、お客が来たときにしかつくらんけど……」と照れ笑いを浮かべつつ指南してくれた押し寿司は目にも華やかで、島のおもてなし精神を窺い知る手立てに。
民泊の受け入れも行っているという濱元さん。「小値賀らしい料理を楽しんでもらいたい」と、豊かな食とはなんたるかをひたむきに、気前よく教えてくれた。
小値賀島での旅にまつわる相談や体験プランの予約は、島のツーリズム協会へ。
おぢかアイランドツーリズム
0959-56-2646
懐かしく新しい癒しに浸れる古民家ステイ
小値賀島での滞在スタイルでぜひ検討したい選択肢のひとつに、島に点在する古民家の一棟貸しがある。築100年以上の木造建築をフルリノベーションし、レトロな趣とシックなモダニティが見事に共存する美しい空間へ。武家屋敷や漁師の家など建物の背景はさまざまで、それぞれに、刻んできた悠久の時を忍ばせる表情がある。
数ある古民家の中でもこちらの「鮑集(ほうしゅう)」には、広い土間を活かした快適でスタイリッシュなアイランドキッチンが。さらに、ダイニングスペースからの漁港を見渡すパノラマビューは圧巻だ。じっと見つめていると、タイムラプスモードで撮影したコマ送りの映像の中に放りこまれたような感覚に陥る瞬間があるかもしれない。
そんな美しい風景を切り取る窓をはじめ、リビングや座敷に広く光を取り入れ、天井を高く使うための工夫がそこかしこに。心と体の芯から、とろけるようにくつろぐ時間を約束してくれるのだ。
ステイせずとも古民家の由緒正しい佇まいと優しい温もりに触れたいなら、築160年の屋敷を改装した「藤松」へ。一本釣りで調達したイサキのみが認められるブランド魚の「値賀咲(ちかさき)」や落花生豆腐など、海の幸を中心とした上質な食事に舌鼓を。
古民家レストラン 敬承 藤松
写真:松園多聞 取材&文&編集:山下美咲