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小値賀島でジーン……私は松浦水軍の末裔だった〜長崎、海と暮らす旅vol.6

小値賀島でジーン……私は松浦水軍の末裔だった〜長崎、海と暮らす旅vol.6

TRAVEL 2023.01 長崎特集

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海に囲まれ海と生きる、長崎県の人々の生活を感じる旅へ。「長崎、海と暮らす旅」の最終回となるvol.6では、本誌のスピンオフ記事として、取材担当による編集後記をお届け。松浦、対馬、そして五島列島の北に浮かぶ小値賀島──記事制作を進めるうちに見えてきた、松浦水軍の面影を辿る。

大海原を駆ける猛者たちの姿を探して

「長崎で今、アジフライが盛り上がっているそうです。その余波が福岡などの近県にまで及んでいます」。そんな噂から取材が決まった、今回の特集。“アジフライの聖地”として話題の松浦市を糸口に、海の恵みを享受する長崎県の人々の暮らしを感じる旅を企画した。数多くの島を有するところも、この地の特徴である。対馬の漁師さんに話を聞き、小値賀島の古民家で離島の暮らしを実体験するステイをピックアップして、海と隣り合わせの生活の様子を伝えようと試みた。

松浦では絶品のアジフライを提供する飲食店のほか、アジを釣ってその場で捌き、調理してフライにするという「松浦党の里 ほんなもん体験」の興味深いクルーズを取材。海からそのまま油にダイブしたといってもいいくらい鮮度の高いアジフライは、魚の概念を変えるおいしさだった。船が出航したのは、御厨(みくりや)港。余談だが、私の祖母はこの町の出身で、佐世保市江迎(えむかえ)町の山下家に嫁いだ。

士族階級の一族だった山下家は街道筋に居を構え、松浦藩主が参勤交代におもむく際、宿泊地を提供していたとか。元禄年間に酒造を始め、今でもその「潜龍(せんりゅう)酒造」は健在だ。私自身の幼い頃の記憶の中に、写真の中で馬に乗った袴姿の曽祖父が、古い家の茶の間をいかめしく見下ろしている光景が焼きついている。

一族が帰依しているのは、かつて貴族に好まれたという真言宗。となれば、祖先はさぞかし絢爛豪華な着物を着たお城住まいの貴族だったのかしら……と思いきや、「もともと海賊だったのが、松浦のお殿さまに仕えるようになった」と聞いて、ちょっとショックを受けたっけ。ただこの“海賊”というのが、貿易や自衛も行った“水軍”であるらしいということは、大きくなってから知ったのだけれど。

取材中には、図らずもこの“水軍”の面影に触れる機会が多々あった。今回取り上げた松浦市では、20年ほど前から毎年10月下旬に「松浦水軍まつり」が開催され、貿易船を模した山車や武者姿の行列が町を練り歩くらしい。取材直前の2022年10月に、松浦市の鷹島沖で元寇船の木製いかりがあがったと報じられたが、このときに日本を守るため戦ったのが松浦水軍だ。

元寇といえば、2020年にはこれをテーマにしたアメリカ発の時代劇ゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」が発売に。元寇の歴史に興味を持つ人や、作中の舞台となった対馬を訪れたいという人が、コロナ禍の中でも増えたと聞く。ちなみにこのゲーム、映画化も決定しているそうだ。

まあとにかく、そんな自衛の背景もあって、対馬にも松浦水軍は出没していた。上の写真のような海原を、命がけで航海していたのかもと考えると、ロマンを感じずにはいられない。

さらに、五島列島の北に位置する小値賀島にも、かつて松浦水軍が立ち寄ったそうだとこの取材で聞いた。それもそのはず、先ほど言及した江迎町の潜龍酒造は、なんと小値賀杜氏の技術を受け継ぎながら酒造りをしているのだ。小値賀島から海を渡って、はるばるあんな山の中まで……(と、幼少期に訪れた江迎町ののどかな光景を知る私は考えてしまう)。

西の果てに浮かぶ小さな島を訪れたのは偶然だと思っていたけれど、もしかして、ご先祖さまが同じ地を踏んでいたかもしれないし、人生の今このタイミングで訪れられてラッキーだったのかも。ノスタルジックすぎるかもしれないが、そんなふうに何かに思いを馳せることは大人になってからあまりなかったので、ちょっと泣きそうになった。

それでなくても島の情景は、私の普段住む東京よりもずっと色濃く感じられ、夕日も朝焼けも燃えるようにビシビシと心に訴えかけてくる。人生ってなんだっけ……海を颯爽と駆ける船を陸からぼうっと目で追っていると、日頃は顧みないようなそんな想いすら湧いてくるのだ。

かつての水軍について知っている人に会うと、なぜか古い友人にめぐりあったような心持ちになる。私にとって、この旅は自分のルーツを強く感じられる、とても大切で意味のある時間となった。きっと記憶にも深く刻まれたと思う。この記事を読んでくれた人にとってはどうだろうか。もしも似た想いを少しでも共有できたなら、これほどうれしいことはない。

写真:松園多聞 取材&文&編集:山下美咲

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