伝統果実の「ゆうこう」が叶える養殖魚、驚きの味〜長崎、海と暮らす旅vol.2
海に囲まれ海と生きる、長崎県の人々の生活を感じる旅へ。「長崎、海と暮らす旅」のvol.2では、長崎市戸石町で生まれ昨今注目を集める「戸石ゆうこうシマアジ・真鯛」を手がける、若手養殖業者のエピソードを紹介する。地域に根付いてきた伝統果実を餌に用いたブランド魚は、地元をはじめ全国の美食家たちをうならせているそう。
伝統の柑橘を餌に。フレッシュな発想が生む新たなブランド魚
松浦市でアジが盛り上がりを見せる一方で、長崎市の戸石町で生まれた初のフルーツ魚も名声をほしいままにしている。「戸石ゆうこうシマアジ・真鯛」は、長崎市でも限られた地域でしか生産されない柑橘在来種の果皮を、魚の餌として採用。事業を一手に担うのは、若手養殖業者の長野陽司さんと西元崇博(たかひろ)さんだ。
「もともとはトラフグの養殖をやっていて、今も扱っています。あるときシマアジの飼育を始めたタイミングで、運悪くもコロナ禍に。それまでと違う付加価値を求め市に相談したことがきっかけで、ゆうこうを餌に取り入れはじめました。すると臭みがなくさっぱりとまろやかな味になり、お客さんから『養殖の概念が変わった』という声をいただいたり、以前は天然ものしか使わなかった飲食店が仕入れてくれたりするようになったんです」と、二人は話す。
イワシにかけて食べたり風呂に浮かべたりと地域に根づいた伝統果実である「ゆうこう」は、食の世界遺産「味の箱舟」にも認定。酸味が強く、魚の切り身の褐色化を遅らせる抗酸化作用も報告されている。
価格変動や魚の病に悩まされても幼馴染の二人で支えあい、自分たちで販売まで行う長野さんと西元さん。「海外輸出もしてみたいし、ゆくゆくは養殖魚専門の飲食店もやってみたい。“養殖”であることを、むしろアドバンテージにしたいんです」
養殖業者は販売に関わらないという従来のやり方にとらわれず、売り先を見つける段階から自分たちで取り組む。「大変だけど、消費者の人々の声が直接聞こえるので続けています。長崎市の滑石(なめし)で『昌賢(まっけん)鮮魚』という養殖魚の小売店も始めました」(西元さん)
昌賢鮮魚
「戸石ゆうこうシマアジ」や「戸石とらふぐ」はもちろん、戸石町の「たちばな漁港」の魚を使った地域の海鮮料理ならこちらへ。芸術的なお造りやゆうこうシマアジ丼に加え、季節に応じアジフライやカキフライも人気を集めているとか。
海鮮料理 わかすぎ
写真:松園多聞 取材&文&編集:山下美咲