世界へ羽ばたくアジフライ、その心と名店4選〜長崎、海と暮らす旅vol.1
長崎は松浦に、アジフライあり──そんな評判が今、世間を賑わせている。松浦の漁港で水揚げされた鮮度抜群のアジを用いたサクサクでジューシーなフライを目当てに、県内外から多くの人が訪れるのだという。「長崎、海と暮らす旅」のvol.1では、松浦市の友田吉泰市長にブームの秘密をインタビュー。さらに、ぜひ足を運びたい市内の4つの名店情報もお届けする。
“当たり前”だったアジフライを、世界へ誇れる看板に
市内の飲食店ではそれぞれ自慢のアジフライを提供し、派生グッズや催しまで展開。今や老若男女を巻き込んでいるアジフライブームの火付け役が、友田吉泰(よしやす)市長だ。
「松浦に住む人のかつての決まり文句は『何もないところ』。それをなんとかしたいと思い、市長選挙の公約に“アジフライの聖地”を掲げたのが始まりです。松浦市には20年以上前から“アジの水揚げ量日本一”と書かれた看板が点在していましたが、地元ではあまりに身近で当たり前すぎて、そのことを十分に活かしきれていませんでした。でもそれって、実はすごいことでしょう。そんな宝物を、地域おこしに使わない手はないと考えたのです」
ただしそんな“聖地化”も、ひと筋縄で実行できたわけではない。「当初はさまざまな方に『アジフライでよそから人が来るわけない』と口を揃えて言われました。だからまずは、市内の飲食店をまわって協力をお願いするところからスタート。市役所の職員一人ひとりの頑張りも本当に大きいです。徐々に雑誌やテレビで紹介され知名度が上がり、今や“アジフライの聖地”は市民の誇りに。離島も含め松浦全土でひとつになれる、貴重なトピックになりました」
数ある食べ方の中でもフライを選んだのは「刺身嫌いな人はいるけれど、フライが苦手な人は少ない」と考えたから。「子どもから大人まで楽しめ、外国人にも受け入れやすい。松浦のアジフライのおいしさを、ゆくゆくは世界に広めたいです」
腕利きの料理人によるアジフライの多彩な展開に加え、松浦の魅力の新たな可能性を切り拓くはずと友田市長も注目しているのが、アジを自分で釣り、その場で調理して食べるという贅沢なアクティビティ。「松浦党の里 ほんなもん体験」では、地元の漁師とともに漁船で海へ出てアジを釣り、近くの離島である青島の港でフライにして食すプランを新たにスタートさせた。
松浦市の農漁村の生活に興味を持つ人々へ“本物”の交流を届ける活動の一環として、修学旅行生から外国人まで幅広く受け入れる。もともと魚嫌いな子から「おかわり」の声が聞けることも少なくないとか。
松浦党の里ほんなもん体験
アジフライの概念を変える、ローカルの名店
2022年10月に元寇船の椗(いかり)が引き揚げられたことが記憶に新しい、松浦市の鷹島エリア。島で信頼する漁師から魚を仕入れる「海道」は、開店時刻と同時に行列ができる人気店のひとつ。「これがアジ!?」と驚くほどの大きさながら、しっとりとまろやかで繊細な味わいは、-40℃で瞬時に冷凍して新鮮さを保つ、徹底した温度管理によるもの。
食事処 海道
鷹島エリアの「三軒屋」は、「新鮮な魚をおいしく食べてほしい」という想いから漁師が始めた、海に浮かぶ食堂。仲間からその日の朝どれの魚を仕入れ、できるだけノンフローズンで提供している。天然ものの新鮮な身は空気を含んでいるので、すぐに油の表面へ上がってフワフワに。さっぱりとした手作りのタルタルソースと絶妙なハーモニーを奏でる。
海上屋台 三軒屋
メディア出演も数多い「きらく」は、可能なかぎり店主自らが船を出し、釣りアジを調達して話題に。しっかりとした食感と軽さ、柔らかさが共存する味わいは、釣ってひと晩寝かせるこだわりによって実現。生パン粉を用いて揚げる軽やかな身に香り高い風味とコクをプラスするオリジナルのニラソースや、定食に添えられる釣りアジの刺身も必食だ。
味楽(あじよし) きらく
松浦市で三代続く種苗園芸店が営むコーヒースタンドでも、アジフライをサーブ。「“聖地”であれば14~16時頃、ランチとディナーのあいだの時間帯もアジフライを食べられるようカバーすべき」という店主の粋な計らいにより、フレッシュな野菜とオーロラ風ソースを合わせた、ブレイクタイムにぴったりのサンドイッチが楽しめる。
絶品のスペシャルティコーヒーを堪能できるのみならず、店内にはアジフライグッズや地域の特産品を購入できるショップスペースも。ステッカーやピンズ、保冷バッグ以外に、地元の飲食店やスポーツチームでユニフォームのようにも使われているハイセンスなTシャツや扇子、風呂敷など、種類も豊富。
Matsuo Nouen + Coffee
写真:松園多聞 取材&文&編集:山下美咲