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海苔の代わりに油揚げで巻いた「南関あげ巻き寿司」ー南関あげを訪ねて熊本へ-2

海苔の代わりに油揚げで巻いた「南関あげ巻き寿司」ー南関あげを訪ねて熊本へ-2

TRAVEL 2023.10 熊本特集

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巻き寿司といえば海苔巻きが一般的だが、熊本県の北西部、玉名郡南関町では、海苔の代わりに「南関あげ」と呼ばれる地元名産の油揚げで巻くという。すし飯と油揚げの組み合わせといえば、いなり寿司でその相性のよさは実証済みだが、油揚げで巻いた「南関あげ巻き寿司」とはいったいどんなものなのか?南関町の郷土料理の研究と伝承に取り組む「南関町生活研究グループ」を訪ねた。

「南関あげは、お祭りやお祝い事などのときによく作られる南関町の伝統的な家庭料理です」と片山カツ子さん(左)。

一番のポイントは、南関あげの下ごしらえ。まずはお湯に入れて10分ほど茹で、しっかり油抜きをしたあと、昆布、干ししいたけ、かつおでとっただしに、砂糖、しょうゆ、みりんなどを加えた煮汁で10分ほど煮て味をしみこませる。

「熱いうちに巻きすで巻いて水分をしぼるのですが、この加減が難しい。あまりギュッとしぼりすぎると味がなくなってしまうので、よか塩梅にせんとならん」とメンバーの葛城れい子さん。

南関あげは海苔の全型と同サイズ

ここでお気づきだろうか。そう、南関あげ1枚は巻きすと同じサイズ。つまり海苔の全型(縦21センチ、横19センチ)とほぼ同じ。だからこそ、海苔巻きにすることを思いついたのだろう。

「そもそも南関あげ巻き寿司は、南関町生活研究グループの前身、生活改善グループの先輩方が考案されたもの。発足から55年になるので、恐らく昭和40年代のことだったのではないでしょうか」(片山さん)

「先輩方は、野菜も無農薬で、しいたけも原木栽培で自分たちで作るところから始めるなど、ものすごく熱心に活動されていました。それを私たちが受け継ぎ、今に繋がっています。今日の野菜もれい子さん、しいたけはみえ子さんが家で育てたものなんですよ」(片山さん)

会長の片山さんをはじめ、今回集まってくれた(左から)島崎洋子さん、赤木みえ子さん、木村千恵子さん、葛城れい子さんは、全員が「くまもとふるさと食の名人」に認定されている料理の達人たちだ。

南関あげ巻き寿司の具は大体5~6種類。今回は、しいたけ、ほうれん草、でんぶ、にんじん、卵焼き、かんぴょう。それぞれ別々に味をつけてある。

「かんぴょうとしいたけは南関あげと同じ煮汁で煮て、ほうれん草は下茹でして薄口しょうゆをかけてしぼっておきます。にんじんも別に煮て味つけをし、甘く焼いた卵焼きは1cmくらいの棒状に。きゅうりなどの生ものを入れているお店もありますが、水分が出てしまうので、基本的には全部火を入れたものにしていますね」(片山さん)。

南関あげ巻き寿司は別名「一合巻き」

見事な連携プレーで準備が整ったら、いざ巻きの作業へ。

「巻きすに南関あげをのせたら、引っ張って全体に広げます。南関あげを作っているところはいくつかありますが、塩山食品さんの南関あげは引っ張っても破れないし、伸びがよくて巻きやすい」(片山さん)

とはいえ、南関あげは海苔と違ってご飯がくっつきにくいため、最初にすし飯を押し付けるように薄く伸ばすのが肝心だという。

「上を少しあけて、両サイドと下はぎりぎりまでしっかり広げてください。具をのせる順番に特に決まりはありませんが、重たいものを下に、ほうれん草は2本を根元と葉先が交互になるようにのせるというくらいかな。大体1本で一合分のすし飯を巻くので、『一合巻き』と呼んでいます」(片山さん)

切るときは真ん中から

1本を8個に切り分けるが、切り方にもコツがあるという。

「端から切らず、まず真ん中で切ります。そしてまた真ん中を二等分、さらに真ん中で二等分に切ると、きれいな切り口になります」(片山さん)

1個でもかなりボリューム感があり食べ応えも十分。ひと口頬張れば、油揚げの甘さが汁気とともにじゅわーっと広がり、すし飯のさっぱりとした味が後から追いかけてきて、それぞれの具の味や食感も楽しい。

片山さんたちは、南関町で年2回開かれるお祭りでだご汁や南関おこわを作って販売したり、地元の子どもたちを対象に料理教室を開いたり、修学旅行で熊本を訪れる県外の中高生たちに料理を教えるなど、郷土料理を広く伝える活動をしている。郷土料理をベースに新たな料理も考案していて、「これは私たち生活研究グループのオリジナルです」と作ってくれたのが二重巻き。

海苔巻きを、さらに南関あげで巻いた巻き寿司だ。南関あげの定番料理、南関煮しめや味噌汁もテーブルに並び、最後はみんなで試食会に。「今日の出来は80点かな」と厳しい評価の片山さんだが、全部おいしくいただきました!

撮影/白木世志一
取材・文・編集/和田紀子

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