日本旅館の文化を守る名宿「洋々閣」~唐津「土の恵み」を守り継ぐ-5
丁寧に打ち水がされた玄関に一歩足を踏み入れると、香の薫りと仲居さんの笑顔が出迎えてくれる。日本三大松原のひとつに数えられる「虹の松原」のほど近くにある明治26年創業の「洋々閣」は、そんな昔ながらのスタイルを守る老舗旅館だ。
真心と美食で迎える老舗のおもてなし
玄関から奥へ奥へと広がる町屋建築のような建物は、創業以来、丁寧に保たれてきた。受け継がれてきた歴史の重みと、日本建築の理にかなった美しさを、館内を吹き抜ける心地よい海風と共に感じる造りとなっている。
館内には「隆太窯」の作品を購入できるギャラリーも。中里隆さんの娘、花子さんの「monohanako」の作品も並ぶ。
料理を目当てに宿泊するお客様も
「洋々閣」が名旅館といわれる所以は、提供される料理にもあるだろう。毎朝、料理長が唐津の鮮魚店に足を運び、その日に水揚げされた魚を見て決められる夕飯メニューは、繊細な仕事が光る目にも鮮やかな会席料理だ。
取材にうかがったのは、夏の酷暑の頃。この日の会席コースの前菜は、「穴子八幡揚げ」「鰻湯葉巻」「厚焼玉子」「海老笹寿し」など、目にも鮮やかな全10種。郷土料理としてこの地方に伝わる「玄海漬け」は、クジラ軟骨の酒粕漬で、お酒の肴にもご飯のお供にもぴったり。
お椀は「鱧葛叩き」。表面に薄く葛をまとわせることで旨みを閉じこめ、のど越しをよくした鱧に冬瓜、ジュンサイ、スダチが添えられた一品。
お造りは「オコゼ重ね盛り」と「イサキ」に「オコゼの煮凍り」が添えられた一皿と、竹の器に盛られた「剣先イカそうめん」。
夏に旬を迎える「スズキの天ぷら」。また「炙り平貝、色出し車エビ、赤うに」を酢醤油のジュレでいただく酒肴も絶品だ。
要予約の特別メニューとして毎年10月から提供される玄界灘の冬の高級魚「クエ(アラ)」を使った「アラづくしコース」は、お造り、煮付、ちり鍋に鱗煎餅、珍味まで「捨てるところのない魚」といわれるアラを食べ尽くすフルコース。これを目当てに訪れる客も少なくないという名物料理だ。
写真は、アラのお造り、煮付などが提供される「アラ会席コース」。こちらも人気のコースとなっている。
「ご宿泊いただくことで、日本旅館のよさを改めて認識してもらえたら」と語るのは、5代目の大河内正康さんと若女将の奈穂さん。「洋々閣」の最大の魅力は、その言葉を体現するような、日本人の「おもてなしの心」を五感で感じることのできる点なのかもしれない。
洋々閣
佐賀県唐津市東唐津2-4-40
TEL:0955-72-7181
http://www.yoyokaku.com/
撮影:yOU
取材&文:小嶋美樹