トレーラーハウスに泊まって満天の星空を~離島で感じる「地球の鼓動」vol.6
竹島、硫黄島、黒島からなる三島村の宿泊施設の数は限られる。そのほとんどが民宿のなか、「トレーラーハウスに泊まる」という唯一無二の体験を味わえる施設が、『iO Caravan Park (イオキャラバンパーク)』だ。
「『イオキャラバンパーク』は、キャンピングトレーラーを置いたキャンプ場なので、テント泊も可能です。ですが、キャンプ用具を持参して、フェリーに乗って硫黄島まで来ることを億劫に感じる人もいると思いました。手ぶらでも宿泊できるようにとキャンピングトレーラーを7棟設置しています」
そう話すのは、同施設を手掛ける株式会社いおう・今別府秀美さん。自身もアウトドアを好み、「テント設営などのわずらわしさをなくし、硫黄島での時間をより有効的に過ごしてほしい」との思いから、2020年6月にオープンした。1名1棟貸し4000円、2名1棟貸し7000円というように、リーズナブルな価格で硫黄島の規格外の自然を満喫できるのは大きな魅力だろう。
自炊型宿泊所となっているため食事の提供は行わないが、キャンピングトレーラーに隣接する炊事場には、カップ麺や冷凍食品などがずらりと並ぶ。鍋やフライパンといった調理道具はもちろん、冷蔵庫やガスコンロ(ボンベ式)なども常備されているため、鹿児島本土から食材を買い込み、自分で料理をすることも可能だ。シャワーやトイレも完備しているので、半キャンプ半グランピングのようなワイルドかつ快適な時間を過ごすことができる。
『ジュラシック・パーク』さながらの場所に泊まる
硫黄島と竹島は、7300年前に巨大噴火を起こした、東西約25km、南北約15kmにわたる『鬼界カルデラ』の外輪山の一部だ。硫黄島の北端から西部にかけて横切る急崖は、まさしく硫黄島が外輪山であることを物語るが、『イオキャラバンパーク』はその急崖の真下に位置する。今別府さんは、「映画『ジュラシック・パーク』の舞台のような場所。ここでキャンプ場を開設したかった」と笑う。
「私は、いつか遊漁船の船長をやりたいと思っていました。アウトドアに加えて、釣りも好きだったので、船舶の免許も取得していた。あるとき、釣り仲間から「お前の天職かもしれない仕事の募集が新聞に載っているぞ」と連絡がありました。それが、三島村の遊漁船船長募集の広告だったんですね」(今別府さん)
訪れてみると、その自然に圧倒される反面、家族を連れてきてまで自分の夢を追うか迷った。だが、「うじうじしているくらいなら早く履歴書を持っていきなさい――と、妻に背中を押してもらって」と、移住の背景を照れながら明かす。平成17年、今別府さんは硫黄島の島民になった。
「硫黄島には手付かずの自然がたくさんあります。暮らしていく中で、キャンプ施設を作りたいという思いが募っていき、7年ほど前に会社を作り、『イオキャラバンパーク』のオープンにいたります。ここにあるキャンピングトレーラーは、すべて自分で買い付けて、運んできました。一番遠かったところでは、岩手県から陸送で運んできたものもあります(笑)」
硫黄島でしか味わえないアクティビティも用意
「何か困ったことがあればすぐに呼んでください」と声を掛けてくれる今別府さんのホスピタリティもあって、『イオキャラバンパーク』の居心地は別格だ。誰かの目を気にすることもなく、好きなタイミングで自分の時間を過ごせる。星空を見ようと思えば、いつでも好きなときに出かけられる。大自然の中にあって、これだけ手軽に、ビール片手に見上げられる星空はそうそうない。
遊漁船の船長でもある今別府さんは、釣りやシーカヤック、クルーズ体験など各種アクティビティの相談にも乗ってくれる。思う存分、硫黄島を楽しめるように――。『イオキャラバンパーク』でしか味わうことができない「体験」がある。
「観光の利便性はだんだん上がってきているのではないかと思います。それでも、フェリーの便数も宿泊施設の数も限られている。ですが、『イオキャラバンパーク』に宿泊された女性が、「今となっては屋久島や種子島は誰でも行くことができるけど、硫黄島は条件が揃わないと訪れることができない。でも、私は来れた。それが仲間同士の中で自慢になる」と仰っていました。多少の不便さはありますが、そういった特別感が、この島にはあるのだと思います」
その特別を、一層演出してくれる人々が、硫黄島にはいる。
イオキャラバンパーク
鹿児島県鹿児島郡三島村硫黄島24
TEL:090-3015-9609
https://io-caravan-park.site/
撮影:久保田光一
取材&文:我妻弘崇