地球と遊んでいるような感覚になる硫黄島~離島で感じる「地球の鼓動」vol.3
まるで恐竜が現れそうな雰囲気だ。活火山と不思議な色の海を擁する硫黄島に足を踏み入れると、太古の時代に下船したのかと胸が高鳴る。
「硫黄島の魅力は、生きている地球の姿をさまざまな角度から見て取れることです。見るたびに違う景色が広がる」
そう説明するのは、株式会社musuhiの取締役として、硫黄島のガイドや体験学習を提供する大岩根尚(おおいわねひさし)さん。環境学の博士号をもち、この島に魅せられ、移り住んだ研究者でもある。
「硫黄島と竹島は、7300年前に巨大噴火を起こした、東西約25km、南北約15kmにわたる『鬼界カルデラ』の外輪山の一部。カルデラの凹地部分は海底に沈んでいます。硫黄島の北端から西部にかけて横切る急崖を見ると、この島が外輪山であることがわかるはず」(大岩根さん)
七色の海と活火山
それにしても、どうしてこれほどまでに海の色が変わるのか?
「例えば、鉄分の多い岩を通り抜けた熱水が海水と混じると、鉄サビのような赤褐色になります。硫黄島では、鉄だけでなくアルミやシリカなど溶け出す成分がさまざまである上、海流によって相互に混じりあうため、沿岸でさまざまな色の海が見られます」(大岩根さん)
日本で最も新しい巨大噴火の痕跡が生々しく残るこの島は、日本ジオパークに認定された地でもある。噴煙を上げる硫黄岳は、さながら地球が呼吸をしているかのようだ。岸壁に浮かび上がる地層もくっきりとわかる。ダイナミックな噴火史の景観を見るため、世界中から研究者が訪れるという。“映え”という言葉では説明できない驚異の風景が連続する。
受け継がれていく島の日常とカルチャー
この島は、大自然が広がるだけではない。硫黄島は、活火山の影響で栽培できる作物が限られる。火山ガスに強く、つるつるした葉っぱに火山灰が付きにくい椿は、硫黄島の産業を支える貴重な資源となっている。97歳の現在も、椿畑の手入れを欠かさないという徳田セツ子さんは、「小さくても大きくても椿の実に変わりはないの。手入れをしておけば、小さい実でも見つけられる」と微笑む。
硫黄島では、採取した椿の実から椿油を作って特産品として販売する。セツ子さんの願いは、島で搾油体験などワークショップを展開する棚次紫寿代(たなつぐしずよ)さんに受け継がれている。棚次さんは話す、「せちばーの思いを大事にしながら、硫黄島の椿文化を広げていきたい」。
そして硫黄島は、子どもたちにアフリカンスピリットが継承されている“ジャンベの島”でもある。“ジャンベの神様”の異名を持つ世界的奏者ママディ・ケイタ氏が硫黄島を訪問したことをきっかけに、2020年東京オリンピックにおいて、三島村はケイタ氏の故郷・ギニア共和国のホストタウンに。硫黄島とケイタ氏の交流は深まり、島にはアジア初のスクール「みしまジャンベスクール」が設立された。フェリー到着時、ジャンベの音色が鳴り響くのは、そのためだ。
見たことのない自然の中で夏への扉を開ける
夜空を見上げれば、無数の星が散らばる。急崖の真下に位置する、キャンピングトレーラーを有するイオキャラバンパークで星空を眺めていると、「自分はとんでもないところで冒険をしている」、そんな気分にひたれるに違いない。相談すればカヤックやクルーズ、野趣あふれる温泉巡り、ジャンベ体験なども可能だ。地球の壮大さを感じながら遊べる島なのだ。
それにしても――。「なぜこんなすごい場所が、秘境のままなのか?」、大岩根さんに尋ねてみた。「フェリーの便が毎日はないため、観光客が訪れづらいからかもしれません」。ある宿泊者にも聞いてみた。「すごすぎて、人に教えたくない」。秘境と呼ばれるには、理由がある。
撮影:久保田光一
取材&文:我妻弘崇
編集:高田真莉絵