内宮宇治橋から拝む日の出 天照大御神の慧眼で選ばれた地 伊勢神宮-1
「伊勢神宮は、日本人を惹きつける大きな磁力をもっている。広大な森と清らかな風、豊かな水があり、神と自然、そして人が共生してきた場所だから」
そう語る写真家の宮澤正明は、公式記録写真家として2013年の式年遷宮のクライマックスである遷御の儀までの10年間、すべての祭儀をカメラに収めた。宮澤は参拝に来ると必ず、五十鈴川(いすずがわ)のほとりにある御手洗場(みたらし)に出て川に手をひたすという。彼にとって水の冷たさを体感することが、新たな気持ちで伊勢神宮と向き合うためには必要なのだ。そうやって、来るたびに新しい何かを発見してきた。
伊勢神宮を撮り続けてきた宮澤だけが知る、とっておきの伊勢神宮を案内しよう。
伊勢は天照大御神(あまてらすおおみかみ)に選ばれた地です。日本書紀には、天照大御神がこの地をたいそう気に入り「この国にいようと思う」と言われたと記されています。およそ2000年前のことです。そこで五十鈴川の川上にお宮が建てられました。これが内宮(ないくう)です。
正宮の正殿は日本古来の唯一神明造によるものです。しかし設計図はなく職人たちの間で技術が引き継がれてきました。それができるのも20年に一回造り替えているからです。屋根に並ぶ鰹木(かつおぎ)は内宮が10本、外宮(げくう)が9本、天に向かって伸びる千木(ちぎ)の先端は、内宮は内側が短く、外宮は外側が短くなっています。
宇治橋からの日の出が一番美しく見える
山があり川と海があり、稲がよく育ち、海の幸にも恵まれているこの地を選ばれたことは、まさに慧眼(けいがん)。
この地で人間は、自然と対話し、神様を感じながら三位一体で共存してきました。神宮はいにしえの知恵の宝庫で、自然を通じて神のメッセージを感じる場所です。その1つに、五十鈴川にかかる宇治橋があります。
この橋は、冬至の日の出が真正面から昇る位置につくられています。つまり冬至に宇治橋のたもとに立つと一年でもっとも美しい日の出を拝むことができるのです。これを誰がどうやって設計したのか。その思考の深さに驚かされます。
玉砂利が敷かれた参道もそうです。舗装した道路と比べて歩きづらいと感じる人もいるかもしれません。ですが、玉砂利は水はけがよくぬかるみができにくい。しかも植物の種が土に届かず雑草が生えにくいのです。そして足音の響きもいい。この空間設計の見事さは、もはや人智を超えているのではないでしょうか。
正宮 皇大神宮
写真 宮澤正明
編集・文 今泉愛子