地域ブランド「うみかぜ椎茸」誕生のきっかけはクワガタ―八丈島をいただきます−4
「ひょうたんからコマ」とは意外な所から意外な物が誕生し、意外な利益に繋がること。今では八丈島を代表する特産品、大竜ファームのうみかぜ椎茸の誕生は、まさに「ひょうたん」から生まれたコマ。
現在ファームの代表である大沢竜二さんが、椎茸とは全く関係のない実家の花屋を継いだのは約18年前。花屋さんから椎茸が生まれたキッカケとなったのは、趣味で行っていたクワガタ飼育。飼育に使っていた菌床ブロックからキノコが生えてきたことに着目。「八丈島で椎茸作りはありなのでは?」とひらめいたそうだ。
平均気温約18度、伊豆七島の最南端に位置する八丈島の気候に最適な菌を求めて全国から菌株を取り寄せること4年間。試行錯誤の末にたどり着いたのが、群馬のとある菌。
「クワガタ飼育の菌床ブロックから生えていたキノコを食べたら美味しかった」ことから、島の気候に合う菌さえ見つかればおいしい椎茸を作れるのではないかという予感に加え、「海からの風に乗り潮が運ばれてくることで空気中の塩分濃度が高く、温暖で湿度の高いこの島は栽培に向いているのではないか」という予見は見事に的中。肉厚でプリプリ、ジューシーな椎茸が完成。まさにひょうたんからコマ。クワガタから椎茸という思いもかけないところから意外なものが生み出された。
コマは出てきたら終わりではなく、それをいかに大きなコマにするかが重要と考え、7年前から八丈島の地域ブランド化を目指している。大沢さんは「地域のブランドを作るには、まず島の人々に愛されなくてはならない」と、島のスーパーでの販売や居酒屋などで実際に椎茸を使ってもらい「口コミで知名度を上げていった」。
椎茸というものは、同じ菌床のものでも育った環境によって、全く違うものになるという。「八丈島の温暖さと空中湿度(60〜70度)、島の濃い塩分濃度の空気がとても良い旨味として入った」椎茸が完成。“うみかぜ椎茸”とネーミングされた椎茸の特徴は、「くさみがなくそれでいてきのこの風味がフワっと漂うのが特徴。軸が太いのに柔らかい食感をもつ」。
オススメの食べ方は「椎茸に青ヶ島の塩を降ってシンプルに焼く」だそうだ。水分が多く含まれているため、一口かじればじゅわぁ〜と口の中に「ゴールデンウォーター」が滲み出てくる。
噂を聞きつけやってきたシェフから「他の椎茸とは全く別もの」と評価も高く、リッツカールトン東京、松本楼、銀座六雁、クルーズ船の飛鳥2、日本丸などに卸している。
取材・文 山下マヌー
写真 高砂淳二