「不合格からの挑戦」車いすユーザーがアメリカで運転免許を取得するまでのリアル
※ この記事は、翼の王国2025年5月号に掲載されたものです。
オーランドでの生活に車は欠かすことができません。昨年1月、こちらに拠点を移した私も、直(ただ)ちにフロリダ州の運転免許取得試験に臨むことになりました。というのも「州内に住居を定めた日から30日以内に、州政府発給の運転免許を取得しなければならない」と、フロリダ州法で規定されているからです。私が日本で普通免許を取得したのは18歳のとき。以来、交通ルールを遵守しながら、もう20年以上もハンドルを握ってきましたから、運転にはそこそこ自信があります。ですから、とくに受験対策もせず試験場に向かったのですが……。
まずは学科試験。受験者はパソコンの前に座り、画面に次々現れる3択問題に答えていきます。50問中40問以上の正答で合格です。出題されるのはすべて英語の質問です。渡米から間もなく、まだ英語力に自信が持てなかった私は、問題文を完全に把握できないまま答えていました。また、日米の度量衡の違いにも戸惑いました。速度や距離の単位が日本と違ってインチやフィート、マイルで問われても、なかなかイメージが湧きません。もはや、当てずっぽうで回答するしかなくなって……。40問ほど進んだところでパソコン画面に「不合格」という残念な表示が!これが、オーランド生活初の“挫折”でした。
「思いの外、手強(てごわ)いぞ」と襟を正し、改めて猛勉強。州法の定める「30日以内」のタイムプレッシャーに晒(さら)されながら、2度目の受験で、私はなんとか学科試験を突破。続いて臨んだ実技試験もパスし、渡米から半月ほどでようやく、フロリダ州のドライビングライセンスを取得できました。
ちなみに、私は運転する際、アクセルやブレーキといった一般的には足を使う操作も、特別な装置を使って、すべて手で行います。日本では車の購入時にリクエストして、手動運転装置が装着された状態で納車してもらっていました。オーランドでは、従来もレンタカーを運転する際などに使っていた携帯式の装置を持ち込み、自分で取り付け運転しています。
バリアフリーが徹底されているアメリカでは、公共施設やスーパーマーケットなど、どこに行っても車いすユーザー向け駐車スペースがたくさん用意されています。車いすユーザーは乗り降りのとき、ドアを全開にするため広い駐車スペースを要するのです。しかし、広大なオーランドでは、そもそも駐車場も広大で、たとえ専用スペースが埋まってしまっていても、困るようなことは皆無です。その点だけを見ても、ここは車いすユーザーにとって暮らしやすい町だと感じています。
写真・文 国枝慎吾
脊髄腫瘍のため9歳から車いす生活となり、11歳で車いすテニスと出会う。四大大会とパラリンピックを制覇する「生涯ゴールデンスラム」を達成。23年1月、世界ランキング1位のまま引退。
2016年よりスポンサーシップ契約を結んでいるANAは国枝さんの新しい挑戦をさらに応援し続けます。
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