市毛良枝さんが70年以上飲み続ける静岡『竹茗堂』の煎茶──家族の記憶とともに
食いしん坊の方々が出合った、とっておきのお取り寄せを教えてもらう連載。暮らしを幸せにしてくれるあの味を求めに、旅をしたくなることでしょう。
70年以上飲み続けている家族との時間を思い出す味。

公開中の映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』で44年ぶりに映画主演をつとめている市毛良枝さん。
豆原一成さん(JO1)の祖母であり、学びの日々を謳歌する文子役を演じた市毛さんが、小さな頃から慣れ親しんでいるというお取り寄せは、お茶の名産地である静岡の老舗『竹茗堂』の煎茶『わらかけ 香千里』。
わらかけとは、春の茶摘み前に覆いをし、日光を遮ることで旨みを引き出す製法のこと。「かぶせ香」と呼ばれる独特の香りが特徴だ。
「静岡で生まれ育ったこともあり、幼い頃からお茶は生活の一部として当たり前にそばにありました。なかでも『竹茗堂』のお茶は、我が家にとって欠かせない存在で、日々の暮らしの風景に溶け込んでいたように思います。夕食を終えたあとには必ずお茶の時間があって、湯気の立つ湯のみを囲みながら、家族が自然と集まる。そのひとときにリラックスしながら両親と交わした会話や笑顔は、今でも鮮明な幸せの記憶です。
また、父は虚礼を嫌う人で、お中元やお歳暮を贈ることはほとんどありませんでしたが、『新茶だけは別』と言わんばかりに、お世話になった方々へ欠かさず届けていました。その姿からも、この味にどれほどの思い入れが込められていたかが伝わります。私たち家族にとって『竹茗堂』のお茶は、ただの飲み物ではなく、日常と絆を象徴する大切な存在なのです。
上京してきてからも、習慣を変えることなく、お茶といえば『竹茗堂』のもの。両親が他界した今もお取り寄せを続けています。
私が今75歳なので、もう70年以上飲み続けていることになりますね。私は、ほぼここのお茶と一緒に過ごしていることになります。そう考えるとすごいですよね(笑)。今、後継者不足などで老舗がなくなってしまうことが増えていますが、『お願いだからずっと続けてね』と思っています。
帰宅したら、どんなに遅い時間でも日本茶を淹(い)れて飲むのが自分の決まりのようになっています。気持ちにひと区切りをつけているんだと思います」

「竹茗堂」の『わらかけ 香千里』
天明元年創業の老舗。日本有数の日本茶の産地で育てられた煎茶と、新芽を守る技法で育てられた「被せ茶」のブレンド。取り寄せはhttps://www.chikumei.shopから。100g缶 2,484円、100g袋2,160円。限定の詰め合わせなどもあり。
市毛良枝
俳優。静岡県出身。文学座附属演劇研究所、俳優小劇場養成所を経て、1971年にドラマ『冬の華』でデビュー。趣味は登山。44年ぶりの主演映画『富士山と、コーヒーと、しあわせの数式』は全国劇場にて公開中。介護エッセイが今秋出版予定。
撮影 江原隆司
取材・文 高田真莉絵
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