日ハム新ドームで清宮幸太郎が挑む新庄監督の〝境地〟~Deportare Trip vol.5
北海道日本ハムファイターズの清宮幸太郎選手との出会いは10年前。彼の父で、日本ラグビーフットボール協会副会長の清宮克幸さんと長年親交があり、清宮選手が中学2年生のときからサポートしている。
そこで今回は、3月にオープンするファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」(北海道北広島市)で、清宮選手のインタビューを敢行。自身最高の成績を残した昨シーズンの反省や、新球場で迎える今季の目標、そして北海道の魅力について聞いた。
新球場・エスコンフィールドで本塁打50本超えを狙う
竹下:新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」の客席からの眺めはいかがですか?
清宮:いやあ、すごい球場ですね。施設の充実ぶりも半端ない(笑)。僕も客席から試合を見たいです。
竹下:野球を愛する人たちの理想郷ですよ。僕自身、世界のスタジアムやアリーナを見てきましたが、これほどの球場はない。屋根付き球場で天然芝という日本初の試みが実現したのも、スタッフ、関係者の並々ならぬ努力の賜物(たまもの)です。寒冷地における芝の育成の実証試験を3年かけて行なってきたと聞きました。
清宮:昨年のデータを見ると、札幌ドームのどこに打球が落ちたのかわかります。それを新球場に照らし合わせると、ホームランの数が3倍増える予測が立つそうです。
竹下:昨季の清宮選手は18本塁打をマークしたので、3倍だと54本。村上宗隆選手(東京ヤクルトスワローズ)の56本に迫りますよ。
清宮:それくらい打ちたいですね。もちろん、僕だけではなく、全てのバッターにチャンスがあると思います。
新庄監督の“デブじゃね?”発言が好転のきっかけに
竹下:プロ入り5年目の昨シーズンは、1軍出場ゼロに終わった2021年から大きく飛躍した年でした。ご自身はこの成績をどう見ますか?
清宮:シーズン当初、 30本塁打を宣言していましたから、掲げていた理想とはかけ離れた数字でした。ただ、打率など全てにおいてキャリアハイになりましたし、1年間1軍の舞台で戦えたことはとてもいい経験になりました。痩せて動きやすくなったことや、体の使い方や構えを変えたのもよかったと思います。あと、新庄剛志監督にたくさん試合に出るチャンスをもらえたことが一番大きかったですね。
竹下:新庄監督の〝デブじゃね?〟発言が報じられたときは、清宮選手自身も正直、痩せる必要性はあまり感じていなかったというか。それよりも飛距離が落ちてしまうことを気にしていたと思うんです。でも、僕のなかで、減量してもパワーを落とさないでいけるというデータがあったので、そういう助言をさせてもらったんですよね。
清宮:父からも、以前から「アスリートだと思えるような体になれ!」と言われていたんですよ。
竹下:最近は、メジャーリーグの選手でも、筋肉はしっかりつけて、体脂肪低めに体をつくるのが主流。克幸さんが言ったのも、そういう体だと思います。清宮選手の場合、かなり大食漢でしたから、食事のコントロールがメインになりました。糖質を控えるために炭水化物を減らして、タンパク質を多めに取ってもらいました。
清宮:20%あった体脂肪率は、シーズン中12%くらいまで落ちて、体重は9kg減りました。
竹下:好成績の要因としては、メンタル面の強化もありましたね。
清宮:プレッシャーから“逃げない”気持ちで打席に立つことができたと思います。やっぱり、成績が悪いときはどんどん“森”に迷い込んでしまって、時には、逃げ出したくなることもあったので。竹下さんやメンタルトレーナーからそういう心の弱さを指摘されて、恐怖心との向き合い方についてきちんと考えるようになりました。野球をやっている限り、プレッシャーから逃げられないわけですから、逆に楽しもう、と。
竹下:思うに、その“どうせ逃げられないんだから”という考え方は、まだネガティブなんですよ。清宮選手だったら、今よりもっと上の次元で活躍できる。「自分に回せ!」くらいの、いつもワクワクしてバッターボックスに入るような選手になってほしいですね。高校時代はそうだったと思うし。
清宮:現役時代の新庄監督とか、チャンスに強い人って、そこにやりがいを感じて楽しんでいると思うんです。僕も、その境地に行きたいですね。
今季は“俺が主役”
新球場で優勝を目指すのみ!
竹下:今年6年目のシーズンに入りますが、東京出身の清宮さんにとって、北海道の魅力はどんなところですか?
清宮:やはり、道民のみなさんが温かいところですね。人と人の距離が近くて。最近、より身近に感じられるようになりました。昨年、「北海道179市町村応援大使」プロジェクトで、豊浦町の応援大使をやらせていただいたんです。道内の市町村を回って感じたのは、道民のみなさんが本当にファイターズを応援してくださっているということ。僕たちは、野球を見てくれる人に夢や希望、そして勇気を与えることくらいしかできないのですが、あんなに喜んでくださる姿を見ると、やりがいを感じます。
竹下:北海道は美味しいものもたくさんあるでしょう。普段は何を食べているんですか?
清宮:やっぱり焼肉が多いですね。札幌市内にチーム行きつけの焼肉屋さんがあるんですよ。食べ物といえば、豊浦町はホタテ養殖の発祥の地。「世界ホタテ釣り選手権大会」というイベントに初めて参加して、豊浦の人たちの“ホタテ愛”を感じました。
竹下:最後になりますが、今シーズンの目標を聞かせてください。昨年に続き、ヤクルトの村上選手など若手選手の活躍が期待されています。
清宮:村上選手の実力は本物ですし、今、日本一のバッターだと思います。でも、今年は今年、何が起きるかわからない。契約更改後の記者会見で「おれが主役」と書かせてもらいましたが、村上選手よりもホームランを打てば、一気に主役になれると信じています。そして、僕が主役になればファイターズは日本一になれる。新球場オープン元年で優勝、という最高のストーリーを作ることを目指すのみです。
竹下:開幕が楽しみですね。
清宮:3万5千人の観客で埋め尽くされた球場を早く見たいですね。きっと興奮すると思います。
竹下雄真
1979年、神奈川県茅ヶ崎市出身。会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。トップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わり、ウェルネス以上、メディカル未満の領域で、クライアントの進化に日々努める。著書に『ビジネスアスリートが実践する最強のリカバリー術』(光文社)ほか多数。
清宮幸太郎選手
1999年生まれ、東京都出身。北海道日本ハムファイターズ所属。高校通算111本塁打の歴代最多記録保持者。2017年ドラフト1位でプロ入り。昨シーズンは、チームトップの18本塁打、55打点を記録した。
エスコンフィールドHOKKAIDO
北海道北広島市Fビレッジ1番地
北海道日本ハムファイターズの新球場となる日本初の開閉式屋根付き天然芝球場。収容人数は3万5000人。野球を見ながら楽しめる温泉・サウナや宿泊施設、世界初のフィールドが一望できる球場内クラフトビール醸造所兼レストランを併設。2023年シーズン開幕前日の3月30日、日本ハム−楽天戦で先行開幕を予定している。
自然光を取り入れるガラス壁は芝の育成を促す。
世界最大級の大型ビジョンを2台設置。
ANA はファイターズの北海道移転時から選手の優先輸送や応援ツアー を実施。新球場に VIP 専用の「ダイヤモンドクラブラウンジ supported by ANA」を新設し、球団と一体となって新球場を盛り上げる。写真は、VIP専門エントランス。
クレジット
撮影/木村哲夫 取材・文/竹下雄真