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Ado、Mrs. GREEN APPLE…“個の才能”が世界へ羽ばたくために必要な人への保証

Ado、Mrs. GREEN APPLE…“個の才能”が世界へ羽ばたくために必要な人への保証

LIFE STYLE 旅で解放する

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トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」の代表・竹下雄真さんが、各界の第一線で活躍するトップランナーと対談し、「旅」を通じて見えてくるウェルネスや仕事術などの秘訣などを伺う連載企画。第4回シリーズのゲストには、ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO)・藤倉尚さんをお迎え、「人を愛するビジネス哲学」をテーマに、ヒットを生み出すための人材の活用方法やリーダーシップ論、そして、心と身体を整えるためのリトリートの考え方についてお話を聞きました。(全5回の3回目)

竹下 最近では藤井風さんやAdoさんが海外ツアーを行うなど、日本のアーティストが世界に進出していますよね。今、日本の音楽は世界でどのように評価されているのでしょうか?

藤倉 就任以来、海外出張へ行く機会も多いですが10年前と比べて、日本に対する関心が格段に高まっていると感じます。観光目的で日本を訪れる人が増えている背景には、「安いから」だけではなく、食事が美味しいとか文化や伝統、自然、そしてエンターテインメントに対する興味もある。音楽もその一つで、日本のアーティストに対しても大きな関心が集まってきています。

竹下 韓国のK-POPのように、日本の音楽にも世界から注目が?

藤倉 そうですね。「次にヒットするのは日本のアーティストでは?」といった海外の関係者からの期待を込めた声もよく聞かれるようになりました。実際、食文化は寿司などがそのまま受け入れられていますし、スポーツでもサッカーや野球の選手が世界で活躍している。そう考えると、日本の音楽も十分に世界とつながれる可能性があると思いますね。

竹下 日本的な感性や音楽が、海外のリスナーにマッチするかという点ではいかがでしょうか?

藤倉 そもそも完全にマッチすることは期待しないほうが良いですね。音楽はそれぞれの文化に根ざしているため、国によってのリズムや楽曲の展開が異なります。例えばアメリカではジャズやヒップホップが音楽に多様なスタイルをもたらす一方、日本の音楽はAメロ、Bメロ、サビといった「予定調和」を重視する構成が特徴的です。日本の楽曲の構成が海外のリスナーにとっては「懐かしい」「70年代っぽい」とポジティブに受け止められる場合もあれば、逆に今っぽくないと捉えられることもあります。

竹下 では、日本の音楽が世界でヒットするための秘訣のようなものはありますか?

藤倉 日本でヒットする以上に海外で成功するのは容易ではありません。でも、不可能なことではないと思っています。結局は“才能”が最大の武器になります。藤井風、Mrs. GREEN APPLE、Adoのように人としての魅力が圧倒的であること。それがこれまでの常識を覆す力になり、グローバルな成功への第一歩になると思います。K-POPが言語の壁を乗り越え世界を魅了する背景には、緻密に計算された戦略があります。グループとしての統一感、洗練されたビジュアル、一糸乱れぬパフォーマンス、そして英語でのメッセージ発信など、世界の人々を惹きつける仕組みが言語の壁を乗り越える原動力となっています。一方で、J-POPにはそのような統一された枠組みが必ずしもあるわけではありません。それがJ-POPの強みであり、日本のアーティストは独自の音楽性など「個の才能」を武器にその壁を越えようと挑戦しています。

竹下 今はSNSや配信サービスの発達で、世界中に向けて個人が発信できる時代でもありますよね。

藤倉 まさにそのとおりです。以前は、まず日本国内で成功してから、ようやく「次は世界へ」と挑戦する流れが一般的でした。でも、子どもの頃からスマホが身近にある世代のアーティストは、最初から国内外を意識せずに音楽を届ける手段があります。レーベルやプロダクションに所属しなくても、自分で配信サービスなどを使って発信すれば、世界中のリスナーに楽曲を届けることができる。YouTubeなど様々なオンラインサービスも活用できますし、可能性は平等に広がっています。とはいえ、そのぶん競争も熾烈になっています。他国のアーティストもより大きな市場を狙っているので、言ってしまえば、“レッドオーシャン”ですよね。日本のアーティストも、ただ「グローバルに通用したい」ではなく、「どうやって個の魅力で突き抜けていくか」を真剣に考える必要があると思っています。

竹下 今日のお話を通して、音楽でもスポーツでも「人」の存在、そして「個の才能」が何より大事だという視点が一貫してあると感じました。藤倉さんが社長になってから取り組まれた改革のひとつに、希望者全員の正社員化がありますが、やはりその後、社員の意識には変化がありましたか?

藤倉 そうですね。日本の企業文化で言えば、正社員であることは当たり前かもしれせん。でも、当社は外資ですし、自分自身も元々は契約社員でした。だから、その働き方が普通だと思っていたんですよね。ただ、心のどこかではずっと不安がありました。成果を出せば、競合他社から声がかかる機会も増えます。「能力主義でボーナスを出します」と言われる一方で、3年連続でヒットが出せなければ契約終了、ということも珍しくありませんでした。この会社が本当に好きだったので、自分自身も「もう辞めなきゃいけないのかな」と感じる瞬間はすごくつらかったです。

あるとき大ヒット作品を出した若い社員が切り出してきました。「今回のボーナス、10年分くらい出たんですよ」と。でも、続けてこう言いました。「それよりも、10年契約にしてほしい」って。すごくよく覚えています。そのとき僕はまだ決定権はなかった。でもその言葉がずっと残っていて、いつかちゃんと応えたいと思っていました。

竹下 実際に社長になられてからは、本社、つまりアメリカ側を1年かけて説得して正社員化を実現されたんですよね。

藤倉 毎日プレゼンしていたわけじゃないけど、結果としては1年かかりました。本社側からすれば、「固定費になる」「成果が出せない社員が混じっていた場合、辞めさせられない」っていうのがリスクだというのは、もっともです。でも、「今、優秀な社員がどんどん他社に引き抜かれている。その理由は、給与ではなく、“身分が保障されていない”からだ」と伝え続けました。日本には“60歳までは働ける”という法律があるのに、会社がそれを保証しないから、泣く泣く辞めていく人がいる。そう説得を続けました。「正社員にすれば業績が維持できるのか?」と問われても、「大丈夫です」としか言えない(笑)。ここからはほぼ“ハッタリ”の世界ですけど、言い切らないと通らないので。

竹下 でも、それが有言実行につながって。社長就任以降、11年連続で増益を達成されてますよね。

藤倉 あのとき「大丈夫」と言わなければ、通らなかったと思います。だから先に「大丈夫」と言って、あとは実現させるしかないと決めました。その後、King & PrinceやBTSなど邦楽を中心に今の当社を支える多くのアーティストのブレイクにつながり、おかげ様で毎年ヒット曲にも恵まれています。今年10周年を迎えたMrs. GREEN APPLEの成功も本当に大きいですね。

竹下 社長に就任されたとき、「人を愛し、音楽を愛し、感情を届ける」という社訓を掲げられたそうですが、その言葉がまさに今のお話にも通じている気がします。

藤倉 ありがとうございます。社訓をつくるときに考えたのは、「自分たちの仕事を一言でどう表現するか」ということでした。2014年、EMIミュージックジャパン(当時)と合併しました。異なる文化の企業が一緒になると、どうしても軋轢が生まれることもあります。「うちのやり方のほうが正しい」とか、「社内のライバルとは情報共有しない」とか。でも、そういうのって本当にアホらしいと思ったんですよね。競争相手は社内じゃなくて、あくまでも社外なんですよ。そして、もっと言えば、僕らの目的は「お客さんに良い音楽を届けること」じゃないかと。

だから出てきたのが、「人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける」という言葉でした。当社はこれまで最近だとオーガスタやA-Sketchなど、吸収合併でたくさんのレーベルが集まってきましたが、いつも思うことは同じです。「そもそも、なんでこの会社に入ったのか?」。そう尋ねると、たいてい返ってくる答えは2つ。「音楽が好きだから」と、「このアーティストが好きだから」。営業でも、法務でも、経理でも、それは変わらない。“感動を届ける”というのは、言葉をきれいに整えた表現だけど、本音は「音楽が好きで、アーティストが好きで、ヒットを出したい」。その思いが僕たちの原点であり、すべての原動力なのです。

ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO) 藤倉 尚 | ふじくら なおし

1967年東京都生まれ。1992年にポリドール株式会社(現・ユニバーサル ミュージック合同会社)入社。邦楽レーベル・ユニバーサルシグマ宣伝本部本部長、同プロダクトマネジメント本部本部長などを経て2008年、執行役員就任。2012年に副社長兼執行役員就任、邦楽事業を統括。2014年1月より現職。米ビルボード誌がアメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard Global Power Players】に2019年、2021年から2025年と日本から初めての5年連続で選出され、計6度の受賞に輝いた。

ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO) 藤倉 尚 写真

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 | たけした ゆうま

会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

https://www.deportareclub.com/

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 写真

取材・文・編集 服部広子
写真 細田純平

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