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藤井風らが受賞 日本発「MUSIC AWARD JAPAN」で世界へ繋がる音楽界

藤井風らが受賞 日本発「MUSIC AWARD JAPAN」で世界へ繋がる音楽界

LIFE STYLE 旅で解放する

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トップアスリート、アーティスト、経営者が通う会員制パーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」の代表・竹下雄真さんが、各界の第一線で活躍するトップランナーと対談し、「旅」を通じて見えてくるウェルネスや仕事術などの秘訣などを伺う連載企画。第4回シリーズのゲストには、ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO)・藤倉尚さんをお迎え、「人を愛するビジネス哲学」をテーマに、ヒットを生み出すための人材の活用方法やリーダーシップ論、そして、心と身体を整えるためのリトリートの考え方についてお話を聞きました。(全5回の2回目)

竹下 藤倉社長のように長年音楽業界にいらしても、「これはヒットする」と確信できることってないんですか?

藤倉 わからないですね。「ヒットの秘訣は?」ってよく聞かれるんですが、正直、秘訣があれば苦労しません(笑)。でも、共通して言えるのはやっぱり「人」ですね。先の見えない問題を解決する力、つまり「問題解決能力」が必要なんですよ。それって、机上の学びだけじゃなくて、走りながら学ぶものだと思っています。例えば、日本の音楽を世界に届けたいなら、その国の状況を知らなければならない。音楽どころじゃない国だってあるわけですから。日本国内もお客さんの価値観はどんどん変わっています。その時代の空気感の中で「何が刺さるか」を常に考える必要があるんです。

竹下 正解はわからないけれど、知識や考える力がなければいけないということですね。

藤倉 もちろん、そういうマーケティング的なことをどれだけ積み重ねても、圧倒的な才能が現れた瞬間に、それが全部吹っ飛んでしまうこともあります。例を挙げると、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴や藤井 風のような才能が出てくると、理屈じゃなく惹かれてしまう。スターと呼ばれる人たちってそういうものなのかなと思いますが、彼らも最初から輝いているわけではなく、原石を見抜く人がいるかどうかということですね。

竹下 そういう才能を見つける人って、スカウトマンみたいな存在なんですか?

藤倉 昔は新人を発掘する担当者がいて、それぞれライブハウスなどを回ったりしてました。でも今は、極端に言えば、部門や担当に関係なく全員がその役割を担ってると言ってもいいかもしれません。YouTubeやInstagramなどSNSなどのオンライン上で新しいアーティストと出会うケースもあります。Adoや藤井 風も、ニコニコ動画やYouTubeなどに作品を投稿していました。ただ一つ言えることは、「再生回数が多い=契約すればヒットする」というわけではないんです。

竹下 深いですね。

藤倉 音楽って、スポーツにちょっと似ているかもしれないですね。高校野球で優勝したピッチャーが、プロでも必ず成功するとは限らない。私が現場の担当をしていたころは、「妄想三原則」と名付けて自身の指標にしていました。20人規模の会場でライブをしているアーティストを見て、「東京ドームでライブをやる未来を妄想できるか?」とか、「NHKの紅白歌合戦で歌っている姿」、「100万枚売れている光景」を想像できるかを考えてアーティストと契約していました。その想像力は時代にあわせて変わります。アーティストとともに情熱を込めて将来像を描ける担当者がいれば、そのアーティストをサインしますね。

竹下 確かに、スポーツも、ワールドカップに出る姿をイメージできるか、メジャーのマウンドに立つ自分を想像できるか。そのイメージができるかどうかというのはとても重要だと思います。僕自身、それがパフォーマンスに影響するっていう研究を大学院でしていたんですけど、まさに同じことをおっしゃっている気がします。

藤倉 自分の中でビジュアル化できてないと、達成はまず無理ですね。たとえそれが妄想でも。

竹下 そう考えると、AIにはそういう“イメージ力”はないかもしれないですね。人間の意思みたいなものが。

藤倉 今のAIは、過去のビッグデータに基づいた情報を提供してくれるということですからね。でも人間は、「答えのないものを解く」とか、「今あるものの先を見る」といったことをやり続けていて、私たちの仕事に置き換えると、ヒットを出すことやいいアーティストを探して世に出すということ自体が、それなんですよ。

竹下 そういう原理原則みたいなものが働かない世界というのはすごく貴重だと思います。「正解がない世界」が、逆に人間の価値を高めている気がしますね。今後、AIにはできないことが意味を持つ世の中になるかもしれない。

藤倉 本当にそうですね。音楽の仕事も楽しいことばかりじゃありませんし、もちろん毎回ヒットが出せるわけでもない。ただ、類まれな才能を持ったアーティストと出会って、その表現が世の中の人に響いて喜ばれている姿を見ると、言葉では言い表せないくらいの感動があるんです。でも、喜びの裏には、決してすべてがうまくいくわけじゃないという厳しさもあり、向き合い方がとても難しい。

少なくとも今はまだAIには感情はありませんよね。一方で、私たち人間には感情がある。だからこそ、アーティストが「叶えたい」と願う夢に寄り添い全力でサポートします。もちろん、これから世に出ていこうとするアーティストにも同じように向き合っています。でも、思いどおりに世の中に届かず試行錯誤を繰り返すアーティストを見ると、こちらも本当に心が痛む。「この世界に呼び込んでよかったのだろうか」と、自問することも少なくありません。

竹下 ヒットや成功の法則は見えにくくても、逆に「これはうまくいかないかもしれない」と感じるケースは見えるものなんでしょうか? 

藤倉 成功よりはわかりやすいかもしれないですね。それは、「熱量」があるかどうか。アーティスト本人にも、周囲のスタッフにも。まれに、才能だけで人の心を掴めてしまう人もいますが、アーティストがお客さんのことを全く考えていないと、たとえ一度は注目されても、二度目、三度目は見たいと思ってもらえない。あとチームも同じで、仕事として動いていても、「この人を本気で応援したい」と心から思えるかどうか。そこに迷いがあると、自然と熱量が下がっていきます。

竹下 それはスポーツの世界にもまったく同じことが言えますね。どれだけ才能があっても、応援されない選手は伸びない。僕自身、プロ選手はもちろん、これからを担う中高生の育成にも関わっているんですが、いつも彼らに「応援される選手になりなさい」と伝えています。それは、お弁当を作ってくれたり、洗濯してくれたりするお母さんもそうですし、コーチや先生、友人に支えられることも含めて。周囲に応援されることで、いいチームができると思いますし、結果的に本人のエネルギーも生まれるんだろうな、と。

藤倉 先日、サザンオールスターズのツアーに行く機会があったのですが、桑田佳祐さんの「ありがとう」の言葉が本当に心の底から出ていて、それがものすごく観客である私たちに伝わってきました。「ツアーが終わったばかりだけど、また、やりたくなっちゃったよ」という言葉も、おそらく、書かれていたものを読んだわけでなく、その場の気持ちから出てきたものだったと思うんです。だからこそ、聞いている私たちにも響くし、「またライブに行きたいな」と素直に思えるんですよね。残念ながら弊社のアーティストではないのですが、それをまざまざと見てきたばかりだったので、つい話したくなってしまって(笑)。

竹下 そういう言葉を自然に言えるって、本当に器の大きさを感じますね。

藤倉 ライブのエネルギーが本当にすごくて、改めて感動しました。MCの中で桑田さんが「僕は石破さんより年上で、アルフィーの高見沢さんより年下なんです」って笑いながら話していて。桑田さん、本当に若々しいし、高見沢さんも若い。桑田さんや高見沢さんは人前に立って、観客を高揚させる役割を担っている。そういうエネルギーの出し方が、若さに繋がっているのかもしれません。石破さんは、国を良くしようと奮闘されていて。実は石破さん、音楽業界のことを本当によく考えてくれていて。今までの総理大臣の中でも、一番音楽に理解のある方じゃないかと思っています。

竹下 それは知りませんでした。

藤倉 今年の初め、音楽業界の関連5団体が共同で開催する賀詞交換会に初めて総理大臣として出席していただいたんですよ。5月には、「MUSIC AWARD JAPAN」という日本版グラミー賞のような授賞式を初めて開催したんですが、そこにも出席の意向を示してくれていて。最終的にはビデオメッセージでの登場になりましたが、首相に応援していただくのは非常に画期的でした。今回のアワードはセットや演出を含めて、間違いなく国内のどのイベントよりも充実した内容だったと思います。

竹下 「MUSIC AWARD JAPAN」は、「世界とつながり、音楽の未来を灯す。」をコンセプトに今回、初めて開催されたと伺っていますが、アワードの狙いや、どんなところが画期的なのかを教えてください。

藤倉 ここ数年、日本の音楽をもっと世界に届けたいという機運が高まっているのを強く感じていました。もちろん、これまでも日本には素晴らしい音楽賞がいくつも存在していますが、アメリカには、グラミー賞という国際的に名高い賞がありますよね。世界に通用するアワードを、日本発で作りたいという声が、アーティストや音楽関係者の間で広がってきていたんです。その流れを受けて、今年ついに第1回の「MUSIC AWARD JAPAN」を京都で開催しました。出演してくれたアーティストたちは、主催者側の事情ではなく、観客が本当に見たいと思う人たちばかり。ライブパフォーマンスも素晴らしく、非常に意義あるイベントになったと感じています。

竹下 「ジャパン」と名付けたのも、グローバルな視点からですか?

藤倉 そうです。日本の音楽賞ではなく、世界へ開かれた日本発の音楽賞にしたいという想いが込められています。世界中の人たちに注目してもらいたいし、海外のアーティストにも参加してもらって、日本の観客に新しい音楽を届けてもらう。そんな場に育てていきたいと考えています。今後、アワードの形式やスタイルは変化していくかもしれませんが、現時点では、音楽制作者やアーティスト自身が選ぶ賞というスタンスを大切にしています。極端なファンダムによる投票形式ではなく、音楽の本質や創造性に焦点を当てた、実力本位のアワードになっていったらいいなと思っています。

ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO) 藤倉 尚 | ふじくら なおし

1967年東京都生まれ。1992年にポリドール株式会社(現・ユニバーサル ミュージック合同会社)入社。邦楽レーベル・ユニバーサルシグマ宣伝本部本部長、同プロダクトマネジメント本部本部長などを経て2008年、執行役員就任。2012年に副社長兼執行役員就任、邦楽事業を統括。2014年1月より現職。米ビルボード誌がアメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard Global Power Players】に2019年、2021年から2025年と日本から初めての5年連続で選出され、計6度の受賞に輝いた。

ユニバーサル ミュージック合同会社社長兼最高経営責任者(CEO) 藤倉 尚 写真

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 | たけした ゆうま

会員制トレーニングジム「デポルターレクラブ」代表。1979年、神奈川県茅ヶ崎市生まれ。早稲田大学スポーツ科学研究科修了。都内パーソナルトレーニングジムにてトップアスリートをはじめ多くの著名人の肉体改造に携わる。著書に『外資系エリートはすでに始めているヨガの習慣』(ダイヤモンド社)、『ビジネスアスリートのための腸コンディショニング』(パブラボ)などがある。

https://www.deportareclub.com/

デポルターレクラブ代表 竹下 雄真 写真

取材・文・編集 服部広子
写真 細田純平

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