宝化物に導かれる大分の旅 臼杵には「財宝を教える妖怪」がいる?
庭先から聞こえる「さいわい、さいわい」という不思議な声。臼杵に伝わる妖怪・宝化物は、壷の精とともに現れ、床下に眠る財宝のありかを告げたという。だがこの昔話が教えてくれるのは、富よりも無欲の美徳かもしれない。国宝の臼杵石仏、美しい臼杵焼、そして極上のふぐ料理へ――妖怪に誘われるまま歩けば、大分の豊かな恵みに必ず出会う。
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!? ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
大分県・宝化物(たからばけもの)
ご利益 金運招福
庭先から聞こえる「さいわい、さいわい、さいわい」……財宝のありか、教えます
臼杵市に伝わる昔話。黄色、白色、赤色の裃を身につけた妖怪が、壷の精とともに屋敷の床下から代わる代わる現れ、財宝のありかを告げる。妖怪の掛け声がユニークで、楽しく語り継がれてきた。
臼杵(うすき)に伝わる床下の妖怪は無欲の美徳を伝える使者か
妖怪の役目として、危険な場所への注意喚起、出来心のいましめなどがあるが、世界を見渡したところ、日本に極めて多いのが、人の楽しみのために生まれた妖怪だ。彼らこそが現在の日本のエンタメに、大きな影響を与え続けているのかもしれない。

あるとき大分県の臼杵に立ち寄った武者修行中の武士が、化物が出るとの噂がある空き家に泊まった。夜中になり床下から黄色、白色、赤色の裃(かみしも)を身につけた妖怪が代わる代わる現れ庭先で「さいわい、さいわい、さいわい」と声を発する。するとその都度、壷の精らしき入道も現れ、武士に床下に財宝が埋まっていることを告げた。武士はとりあえず一眠りし、翌朝心配になってやってきた村人と一緒に財宝を分けたという。「さいわい〜」の掛け声のあたり、狂言の一幕が眼(め)に浮かぶよう。
財は貯め込まぬがよしという、無欲を讃(たた)えるお話か。
筆者は3色の裃を一つに合わせ、大分の県鳥であるメジロを妖怪に仕立てて着せてみた。
【上】九品の弥陀像。平安時代末期頃の作。
臼杵の名所には、平安時代末期から鎌倉時代に彫られた巨大な石仏群、国宝の「臼杵石仏(臼杵磨崖仏)」があり、地元の小学生の遠足スポットだそうだ。
臼杵石仏(臼杵磨崖仏)
大分県臼杵市大字深田804-1


また川を挟んだ東側にある、繊細で美しい臼杵焼のショップとカフェを訪ねれば、ダイナミックな石仏との手作業の対比に心が震える。
臼杵石仏のすぐ近く、200 年の歴史を持つ美しい臼杵焼を中心とした、複合施設の「atelier SARAYAMA」。


美味しいお茶とスイーツをいただきつつ、じっくりと作品が選べる至福の空間。
皿山喫茶室(うすき皿山北舎)
体の中も外も解けていく大分に棲む妖怪が羨ましい
【上】「料亭山田屋」(臼杵本店)のふぐ刺身
妖怪・宝化物の伝承地、臼杵で忘れてはならないのがふぐ。肉厚で濃厚な出汁(だし)が取れると評判の、とびきりのふぐのコースを「料亭山田屋」で。落ち着いた空間で臼杵のふぐの真髄を堪能できる。



料亭山田屋
ここから北上し、大分駅近くの「いろり焼久乃」へ。びっくりするほど良心的な価格と、たった一人で仕込みをするご主人の人柄に、県外から通う人も絶えない。どの季節でも美味しい魚にありつける。





いろり焼 久乃
大分県大分市末広町2-3-7リーブル末広
097-537-1225

さらに北へ向かえば「べっぷ地獄めぐり」で、7種の個性的な源泉を回ることができる。1000年以上も前から書物に記されている国指定名勝で、なかでも妖怪と相性がよさそうなのは、水面下の酸化鉄や酸化マグネシウムを含む赤い粘土が現世とは思えぬ景観を創り出す「血の池地獄」。
血の池地獄
大分県別府市野田778


そして街のあちこちから温泉の湯気が沸き上がる別府では、湯気を利用した、「地獄蒸し」という料理も各所で味わえる。

「地熱観光ラボ 縁間(えんま)」では、なんと野外で足湯に浸(つ)かりながら地獄蒸しをいただける。海鮮、肉や卵はどこの店でも定番だが、ここで人気があるのは意外にも蒸しピザ。ホワイトソースで和えた海鮮がのったもちもちの生地は、どの世代にとっても食べやすい。
美食で胃を満たし、温泉で体を癒す。宝化物に財宝のありかを教えてもらっても、大分で全て使い果たしてしまうかもしれない。
地熱観光ラボ 縁間
大分県別府市鉄輪字風呂本228-1
0977-75-9592
参考
『日本昔話百選』稲田浩二・稲田和子(三省堂)
『日本昔話通観 第23巻 福岡・佐賀・大分』稲田浩二・小沢俊夫(同朋舎出版)
『子どもに語る 日本の昔話3』稲田和子・筒井悦子(こぐま社)
「ニッポン47妖怪さんぽ」が2025年度グッドデザイン賞を受賞いたしました

取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子
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