千葉で金運アップ 落花生とご利益グルメを巡る八街・九十九里の旅
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
千葉県 カネダマ
行いよければ大判小判が降ってくる!?江戸時代から千葉に言い伝えられるご利益妖怪

主に今の千葉、八街に伝わる話。赤や黄色の玉、あるいは大判小判そのものが空から飛んできて、民家の蔵などに財宝をもたらす。品行方正に暮らす者のもとにやってくるとされる。
ご利益 財運隆昌
天日に輝く八街の宝 千葉の妖怪は善者の味方
見渡す限りの落花生が、気持ちよく天日干しされている。ここは千葉県の八街(やちまた)市。「千葉といえば落花生」といわしめるほどの名物となっており、その代表的な地元の製造・販売企業「ますだ」では秋から冬にこのような光景を見ることができる。


さて千葉の妖怪カネダマは、光の玉となって江戸時代の八街に飛来し、飛び込んできたその家は栄えたそうだ。このような黄や赤の塊がやってくるものに金霊(かねだま)、あるいは大判小判そのものが飛んでくるパターンに金玉(かねだま)という字を当てたようで、いずれも正直者や無欲な者に富をもたらすための存在として言い伝えられている。
ちなみに漫画家の水木しげる氏が子どもの頃、屋根の上で昼寝をしていた最中、地震と共に10円玉の形をした物体が飛んでくるのを目撃したそうで、それは金霊であったと公言している。
このように火の玉を思わせる妖怪は、いわゆるヒトダマとして怪談に多く登場するが、カネダマについて様々な伝承を読んだ限りでは、音と共にスピード感をもって現れているため、大火球(流れ星)が元になっているのではないかと思われる。筆者は燃える流れ星のような姿で、富を直接運ぶ妖怪を造形してみた。
いつか我が家にも飛び込んでくれないかと心の底で念じながら、そのまま九十九里浜方面に移動する。







天日干しのほか、チョコや胡椒などさまざまな商品が製造されている。「香るピーナッツクリーム」も大人気(ますだの落花生)
ますだの落花生
落花生の天国を経由して九十九里ではまぐり三昧
妖怪の伝承を追って八街まで来たが、その後に千葉の海の幸を頂かないわけにはいかない。なんと建物の上部が船の形をしている、九十九里の「いさりび食堂」では、海からの恵みをテーブルのコンロで焼きながらゆっくりと堪能できる。

多くの人が注文しているのが、はまぐり焼き。火にかけてゆったり待っていると、プチュプチュと泡を吹く音が微(かす)かに聞こえてきて、芳醇(ほうじゅん)な香りを吹き出し始める。窓の外に広がる九十九里の広い海と同じくらい、いつまでも眺めていたい光景だ。店のあちこちを彩るイラストも、今風で見応えがある。





いさりび食堂
千葉県山武郡九十九里町不動堂451-23
0475-76-2646
さらにもう一軒、どうしても寄りたかった、とっておきのピザ店。『BaBaピザ(はすぬま味工房)』という、九十九里らしくはまぐりやイワシのピザがあるという地元で人気のお店。
運営は「笑の会」。朗らかさにこちらも元気が出る
ボリューム満点のふかふかピザをサーブするのは、いきいきと働く人生の大先輩のお姉様方6人。平均年齢81歳と聞いて目を疑った。地元の婦人会から慈善活動を経て、ピザ店を開いたのが2019年。コロナ禍が襲来してもやる気と友情で店を守り通した。

向かいには畑もあり、作物を使ったメニューにも意欲的。みなさんからは「やりたいと思ったことをやるだけ!」とシンプルで熱い、継続の秘訣を教えてもらった。次にカネダマが飛び込んでくるとしたら、ここなのかもしれない。




右からフルーツピザ、イワシピザ、はまぐりピザ(BaBaピザ)
BaBaピザ(はすぬま味工房)
千葉県山武市蓮沼ハ103
090-8343-7261
参考
『今昔画図続百鬼』鳥山石燕
『兎園小説』滝沢解
『決定版日本妖怪大全』水木しげる(講談社文庫)
「ニッポン47妖怪さんぽ」が2025年度グッドデザイン賞を受賞いたしました!

取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナーポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 原ヒデトシ
編集 中野桜子