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山梨・甲府で味わう桃とシャインマスカットとワイン 道志村の吊り橋を渡り出会う妖怪

山梨・甲府で味わう桃とシャインマスカットとワイン 道志村の吊り橋を渡り出会う妖怪

ENTERTAINMENT 山梨県

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数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。

【山梨県】頬撫(ほほな)で

人畜無害な触りたがり妖怪ひんやり?人肌?ほっぺたに青白い手

山梨県南都留郡道志村の伝承。道志川の側では夜になると青白い手が現れて、通行人の頬を撫でていくという。姿は謎に包まれている。

ご利益 一路平安

夕暮れの山道に白い手が西へと誘われる山梨の旅

囁(ささやき)声が聞こえるのも、目の前を横切る影も、ほとんどは妖怪の仕業だ。ここ南都留郡(みなみつるぐん)の道志村(どうしむら)では、暗い道でもしも誰かに頬を触られたような気がしたら、それは「頬撫(ほほな)で」のせいらしい。青白い手だけが、そのまま通り過ぎて消えてしまう。 

道志村は神奈川県に接する山梨県の南東部にあり、豊かな自然に恵まれ、いくつもの民話が伝えられている。特に美しく澄んだ水流が人々を魅了する道志川沿いに多く、シャカシャカとした音とともに冷気を発する「小(あずき)研ぎ」や、狸が僧侶になりすます「むじな和尚」など、枚挙にいとまがない。筆者の想像で頬撫での全体像をひらひらと空を泳ぐような姿で造形し、伝承地に赴いた。そこには全長71mのスリルある吊り橋「久保吊り橋」があり、山梨百名山のひとつ、大室山の登山口へつながる遊歩道になっていた。34m下を流れる道志川には、阿弥陀如来像(あみだにょらいぞう)を盗んだ男がその怒りに触れて川に落とされたという逸話もあり、思わず足がすくむ。 

久保吊り橋

山梨県南都留郡道志村

さて山梨の名産は数多く、道志村から西に甲府方面へ1時間ほど車を走らせれば、ブドウや桃の看板があちこちに見えてくるので胸が高鳴る。「ファミリー農場さの」では、手塩にかけて育てたシャインマスカットが、まもなく収穫期を迎えるところだった。完熟した桃の濃厚な香りが、頬を撫でていく。

あと半月ほどで収穫を迎えるシャインマスカット。農場は高地にあり快適

シャインマスカットを愛でる代表の佐野昇氏。親しみのある語り口にファンも多い
まさに桃の収穫期! もいですぐに食す桃の味は格別(ファミリー農場 さの)

ファミリー農場 さの

山梨県笛吹市御坂町上黒駒3550

055-264-5060

https://familysano.com/

ワイナリーは歴史の結晶山梨産が果てしなく続く宴

静かに熟成を待つワイン(ルバイヤートワイン)

ブドウといえば、やはりワイン。山梨は1870(明治3)年に醸造が始まった日本ワイン発祥の地。現在では日本最多のワイナリーが集まり、国内での生産量も群を抜いている。風に乗る妖怪・頬撫でに、キリッとした「これぞ日本ワイン」が飲みたいと伝えると、1890年創業の老舗「丸藤葡萄酒工業(ルバイヤートワイン)」に誘われた。

長期熟成のための貯蔵庫「紅葉蔵」

四代目が丁寧に引き継ぐワイナリーの、真夏でもひんやりとした地下貯蔵庫でコンサートが催され、廊下には名付け主の古書簡が展示されるギャラリーがあり、かつてワインが貯蔵されたタンクの内壁には天然のミネラル成分「酒石」という輝く結晶が残るなど、全身でワインの楽しさ、奥深さを感じることができる。また、かつて養蚕を行っていた古民家でのテイスティングは時が止まったような贅沢なひとときで、忘れられない思い出になる。 

四代目代表の大村春夫氏

1959~60年竣工のコンクリートタンクの中にある、冬の剪定から晩夏の収穫までワイン造りの四季を表した美しいステンドグラス

丸藤葡萄酒工業(ルバイヤートワイン)

山梨県甲州市勝沼町藤井780

0553-44-0043

https://www.rubaiyat.jp/

夜は甲府駅近くの「紅梅や 甲府本店」で山梨尽くしの膳を。信玄どりと明野(あけの)のたまごの濃厚な味わいの親子丼が人気メニュー。ゆっくりできるなら貴重な甲州牛のすき焼きもおすすめで、〆には山梨米のご飯、あるいはほうとうを投入することができる。すき焼きの残り汁には山梨名産のきのこからの出汁(だし)が香り、ご飯かほうとうか迷ってしまう(両方食べ尽くす猛者(もさ)もいるらしい)。2024年に10年目を迎え、リニューアルオープンを機に、ほうとう鍋のバリエーションを多数打ち出している。一度ではとても全て味わえないため、確実にまた来ることになるだろう。 

帰路に就くといつの間にか頬撫ではいなくなったが、いつまでも腹を撫でている自分がいた。

山梨産の食材が使われる親子丼。ジューシーな信玄どりと、コクのある明野のたまごがふんわりと絡み合い、観光客のみならず地元客のリピーターも多い
年間300頭限定とされている甲州牛のすき焼き。美しく豊かな霜降りが特徴で、1枚目はまず肉だけを味わう
すき焼きの〆は、地元の米と迷った末に今回はほうとう。大満足(紅梅や 甲府本店)

紅梅や 甲府本店

山梨県甲府市丸の内1-15-6 地球堂ビル1F

055-223-1210

https://kobaiya.jp

参考
『道志村の民話さんぽ』末創一(山梨日日新聞社出版部)/『道志の民俗:南都留郡道志村』山梨県史編さん専門委員会民俗部会(山梨県)/道志村役場観光情報サイト https://www.doshi-kanko.jp /『富士の国 やまなしの魅力』山梨県公式ホームページ https://www.pref.yamanashi.jp/miryoku/shoku/wine

取材・文・造形 森井ユカ

立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。

撮影 原ヒデトシ 
編集 中野桜子

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