知床半島の艶やか海の幸グルメがずらり 思わず驚嘆「ここまで来た甲斐がある」
数千もの伝承の中から、都道府県ごとに一匹の妖怪を選び、造形作家森井ユカの独自の解釈で創造しました。
妖怪に誘われるがまま旅すると、美味しいもの、きれいな景色に必ず出会える!?ようこそ、空飛ぶ百鬼夜行へ。
ルルコシンプ
アイヌの伝承で、海に棲(す)む精霊。器量がよく美声の持ち主であり、人に取り憑(つ)いて災いをもたらすものもいれば、守り神となるものもいる。その正体は海の泡ともいわれている。
ご利益 海上安全
災いをもたらすか、はたまた守り神となるか…器量がよく美声を持った、海に棲む精霊
自然の中にある全てのものに魂が宿るとするアイヌ文化。文字を持たぬ民族は、あらゆる事象を口承で伝えてきた。アイヌの民話に登場する、海に棲(す)むルルコシンプは、あえていうなら人魚のようなもの(山にいるのはイワコシンプという)。
多数出版されているアイヌ語辞典によると、ルルは海水の意、コシンプは妖精や魔物を指す。人に取り憑(つ)き、海へと誘(いざな)う怪しい歌をうたい、災いをもたらすものもいれば、守護神となるものもいる。姿も声も飛び切り美しいが、正体は海の泡かもしれないとのことで、泡に包まれた人魚の姿で造形してみた。
知床の海を体現する美しくも苛烈(かれつ)な神々
ルルコシンプを追って、オホーツク海に面した知床(しれとこ)へ。アイヌ民族にとってここは最果てではなく、世界の始まりだ。 知床半島はその豊かな生態系を評価され、2005年にユネスコの世界自然遺産として、取り囲む海域ごと認定された。2月〜3月はこの世界遺産に「流氷」がびっしりと張り、オホーツク海でしか見られないその神秘的な光景に息を呑む。
知床の海を知り尽くす漁師の種田礼士(たねだれいじ)氏に、この地をご案内いただいた。生き生きとした生命力に溢れる一方で、吸い込まれるような恐ろしさが同居するこの地に、ルルコシンプの民話の印象そのものの気高さを感じた。
そんな世界遺産をじかに感じられるホテル「北こぶし知床ホテル&リゾート」。ロビー、客室、大浴場、サウナからもオホーツク海が見渡せる。オールインクルーシブによって赴くままの滞在が叶えられ、リピーターが多いことも頷ける。夕食、朝食のダイニングにずらりと並ぶ地元産料理はライブ感のあるオーダービュッフェ。実に壮観で、毎日が祝祭のようだ。ラウンジでは24時間軽食とドリンクが提供され、「流氷テラス」での足湯も好評。スタッフには知床の情報に精通するエキスパートが多く、頼りになる。
知床牛のサーロインステーキ
オホーツク海が別角度で見渡せる直線的・曲線的な設計のサウナ(北こぶし知床ホテル&リゾート)
北こぶし知床ホテル&リゾート
世界中が魅了される知床の豊かな海の幸の世界
激しい緊張感と神々しさの両面を併せ持つ、知床の崖を覆う滝
緑が映える夏と流氷の冬、知床には年に2回のシーズンがあり、斜里町(しゃりちょう)には地元の人も観光客も訪れる魅力的な飲食店がたくさんある。
店内を取り囲む大漁旗が目印、活気に溢れる「圓子(まるこ)水産」では器からはみ出さんばかりの大迫力の「天然ブリ丼」や「鮭といくらの知床漬け丼」を。生まれも育ちも知床、鮭漁師の店主が自ら獲った鮮魚を提供する、間違いのない店。出来立てのいくらの美味(うまさ)には驚嘆する。
圓子水産
「かにや」では生簀(いけす)からカニを選び、店主と相談しながら調理をしてもらえる。もちろん店でいただいてもいいが、自宅や滞在先に持ち帰り、時間を気にせず食べられるのが最大の魅力。店の奥でも海鮮の五色丼を始め、様々なメニューが楽しめる。
取材時期はイバラガニ多数。タラバガニより濃厚ともいわれる名産だ(かにや)
かにや ホロベツ店
北海道斜里郡斜里町ウトロ東397-2
TEL 0152-24-3135
異色なのは「知床屋台てるちゃん」。道の駅うとろ・シリエトクの傍(そば)で灯(ともる)赤提灯(あかちょうちん)は、福岡出身の店主が博多の屋台のスタイルと知床の素材を組み合わせた人気の屋台。冬はおでんや麺類がメインで、知床産の魚介やじゃがいもが味わえる。灯(あか)りに吸い寄せられた人々からは、さまざまな外国語が聞こえてくる。 結局ルルコシンプは視界に入っていたのかどうか。これは季節を変えてまた訪れる必要がありそうだ。
知床屋台てるちゃん
参考
『金田一京助選集:金田一博士喜寿記念II(アイヌ文化志)』(三省堂)
『アイヌ文化(9)』アイヌ無形文化伝承保存会編
『アイヌ人とその説話』ジョン・バチェラー(富貴堂書房)
『萱野茂のアイヌ語辞典[増補版]』萱野茂(三省堂)
『アイヌ民族の歴史と文化の入門書』(阿寒アイヌ工芸協同組合)
協力
種田礼士(種田漁業)
取材・文・造形 森井ユカ
立体造形家/キャラクターデザイナー ポケモンカードゲームのイラストレーション、「コネコカップ」「ネゴ」のデザイン、粘土遊びセット『ねんDo!』のディレクションなど。著書多数。
撮影 橋良英智
編集 中野桜子