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だまし絵の外壁? ミュンヘン・レジデンツに残る戦後復興の美学

だまし絵の外壁? ミュンヘン・レジデンツに残る戦後復興の美学

TRAVEL 2025.07 ミュンヘン特集

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ミュンヘン・レジデンツの「絵の外壁」—これはアートか、それとも節約か?という話です。ミュンヘンの中心に堂々と構えるレジデンツ。バイエルン王家の栄華を今に伝えるこの宮殿は、内部の豪華絢爛な装飾で知られている。しかし、訪れた者がまず驚くのは、その外壁。「えっ、これ…絵?」と二度見をし、そして目を疑う。そう、レジデンツの外壁は本物の石造りではなく、トロンプ・ルイユ(だまし絵)の技法で描かれたのだ。

なぜ「絵」なのか?この疑問に対する答えは、歴史の中に。第二次世界大戦中、ミュンヘンは激しい空襲を受け、レジデンツも大きな被害を受ける。戦後、復興が進められたが、資金の問題が立ちはだかったのですね。とりあえず王宮の内部は可能な限り元の姿に戻されたものの、そこで資金がショート。外壁の修復には莫大な費用がかかるということで、それならば「描いてしまえ!」という大胆な解決策だったというわけ。

トロンプ・ルイユの技法は、バロック時代からヨーロッパで広く使われていたものですが、まさか王宮の外壁にまで適用されるとは…。喩えていうなら、皇居の外壁を絵で書いてしまうようなもの?その結果、遠目には立派な石造りに見えても、近づくと「えっ、これペイント?」と驚かされることになる。

「そりゃないだろう!」と思う瞬間。

レジデンツの入場料は10ユーロと決して安くない。内部の豪華な装飾や歴史的価値を考えれば納得できるとはいうものの、しかし外壁を見た途端「これでこの値段?」と感じてしまう人もいるにちがいない。これもまた喩えていわせてもらうなら、高級レストランに入ったらテーブルクロスが紙製だった…そんな気分なのだ。とはいえ、ミュンヘンの人々にとってこの「絵の外壁」も、歴史の一部。戦後の復興の象徴であり、限られた資源の中で文化を守るための工夫でもあったのだ。「本物の石かどうか」よりも、「レジデンツが今もここにあること」の方が重要なことなのかもしれないのだ。

もちろんレジデンツの魅力は外壁だけではない。内部に足を踏み入れれば、バイエルン王家の栄華を感じることができる。特に「アンティクヴァリウム」と呼ばれるホールは圧巻で、天井画や装飾の細かさに息をのむ。ここに来たなら、外壁の「絵問題」はひとまず置いて、王宮の内部に没入するのが正解なのだろう。

ミュンヘン・レジデンツの外壁は、確かに「そりゃないだろう!」と思うかもしれない。しかし、繰り返すがそれは戦後の復興の知恵であり、ミュンヘンの人々にとっては歴史の一部。ぜひ内部の豪華な装飾を堪能し、「絵の外壁」も含めてこの宮殿のユニークな魅力として楽しむのがよいのだろう。さて、あなたならこの「絵の外壁」、どう評価する?ミュンヘンの歴史とともに、ぜひ現地で確かめてみてほしい。

取材・文 山下マヌー
写真 Dice.M.P.

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